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丹羽良徳:アクティヴィズムの詩学
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 6月 10日

《撤去された鳥の巣をギャラリーの天井で編み直す》2010年
画像提供:gallery αM|© Yoshinori Niwa

αMプロジェクト2010「複合回路」は3人のキュレーターによる企画展第三弾。鈴木勝雄(東京国立近代美術館)による企画。

内気な闖入者 鈴木勝雄
丹羽良徳の表現の現場は、ギャラリーや美術館というよりは、街中すなわち無数の人々が行交う公共的な空間にあった。自らの身体を駆使したパフォーマンスや、参加者と共同してつくり上げるイベントを通して日常の中にある種の異物を挿入し、そこから広がる波紋を生きた経験として共有することに賭けてきた。きわめてシンプルな行為だけを頼りに、「コミュニケーション」「境界」「市場」といった現実の複雑な主題に対する鋭い問いかけを発してきたのである。

「異物」を挿入すると言ったが、強いショックを与えることは彼の流儀ではない。人懐こい丹羽のキャラクターを反映してか、社会に一石を投じるその方法は、どこかユーモアとやさしさに彩られている。対象に舌鋒鋭く攻撃を加えることよりも、社会に「変化」を生み出す可能性は他者とのつながりの中にあると信じているからこそ、そのような一見柔らかに見える介入の方法を意識的に選んでいるのだろう。社会のシステムや関係の網目の内側にするりと入り込む作法と言い換えることができるかもしれない。

しかし、他者とのつながりを求めながら、その一方で「対話」を強要することには慎重だ。だから、しばしば彼のコミュニケーションは一方通行となる。見えない他者への伝言、言葉の通じない動物とのやり取りなど、あえて一方通行的な関係に留まることの可能性を丹羽は問う。それによって、届かぬ声が「祈り」に似た誠実さを帯び、対話の欠損を補う想像力が豊かに働き始めることを期待して。

今回のαMでの個展は、丹羽にとって、ギャラリー空間という制約への挑戦となるだろう。これまでの路上での実践が放っていた鮮度を減じることなく、ギャラリー内でどのようなリアルな体験を創出できるかが課題となるはずだ。

「現実」と文通する  丹羽良徳
かつて数年だけ存在したセルビア・モンテネグロという名前の国に行ったことがある。ベオグラードからノビサドという街までの車から見える風景は一面荒野だったのだが、そこに煉瓦造りの崩れかけた構造物が幾つも点在していたのを見た。

荒れた構造物に群がるように無数のカラスのような黒い鳥たちが集まっていた。あれは何なのか、と地元の人に訊くと民族紛争によってボロボロになった荒野に取り残された人間の死体を漁りに鳥たちがやって来るのだと言う。それが真実なのかどうかは今となっては確かめようのないことだが、平凡な東京の大学生であった僕にとっては大きな衝撃として記憶に残された。私達日本人が、日本が日本であることへの疑問や、私達が何者であるかという疑念を全く持たずに暮らしていることに対してとても恥ずかしく思った。同時に、あのセルビア・モンテネグロの風景の真実が何であったのかということよりも、あの場において僕が彼らといかに関わりあえるかという大きな質問をされているような気分になった。

僕が芸術家としてできる唯一の行為は、目の前で現実に起こっている出来事の内部へするりと侵入し、これまで関係が見えなかったもの同士の回路を見つけ出すことだ。そして過剰な意味や価値観を脱ぎ捨てたプリミティブな状態から私達の生を勇気づけることだろう。

僕のもっている疑問をそのままダイレクトな形で表出しながら、僕自身がひとつの「社会的な質問」であるような生き方をしたいのだ。自分の人生をメディウムにして現実的に繋がりそうもない出来事を強引にでも横断しながら、その芸術的創造行為を、今を生きて行く現代の私達への質問状として手渡していきたいと思っている。

にわ・よしのり
1982年愛知県生まれ。2005年、多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科卒。路上を活動の拠点とし、国内外で、コミュニティーベースのプロジェクトや、社会への介入を試みるパフォーマンスを発表。主な作品に鳥インフルエンザが流行した時期に鶏にイラク戦争や身の回り様々な質問をしにいく「ヤンキー養鶏場」、東ベルリンの水たまりを口で吸い上げ別の水たまりに移しかえる「水たまりAを水たまりBに移しかえる」など。主なレジデンスに2005年、VENT Residency Programme(オックスフォード、イギリス)、2007年、TOU SCENE(スタヴァンゲル、ノルウェー)、2010年、HIAP Production Residency Program(ヘルシンキ、フィンランド)など。また都内のパブリックスペースをゲリラ的に活用した国際芸術祭「Artist as Activist」などを企画しオルガナイザーとしても活動する。最新作に2010年3月ヘルシンキで制作された「泥棒と文通する」。2010年8月21 日~9月25日アイコワダギャラリー(東京)で個展予定。
http://www.niwa-staff.org/

※全文提供: gallery αM

 


会期: 2010年7月24日-2010年9月11日

最終更新 2010年 7月 24日
 

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