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田口行弘:接触領域
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 3月 06日

田口行弘 Moment(15pics) performatives spazieren(wandering), 2008, Berlin (C)Yukihiro Taguchi

2010年度企画として3人のキュレーターによる「複合回路」、第一弾。

「洞穴で見る真実」 高橋瑞木
解体と構築という行為が田口の「作品」である。ベルリンではアパートのフローリングの床を剥がし、街中でその床材を用いてベンチやバドミントンのコート、あるいは用途不明の構造物を作ってはすぐに解体した。ソウルでは商店街に積まれた段ボール箱を積み木のように積んで、新しいかたちをつくってはまた壊す。だから、彼の作品の「全体的なかたち」は記憶されることがない。

田口の行為は「全体性」や「かたち」といった概念をからかうように、街なかで見つけた素材と戯れながら固定のイメージからすり抜けてゆくのである。本展ではベンヤミンが『パサージュ論』で比喩的に用いているあのファンタスマゴリーさながらの空間が展開する。

家具や日用品による構造物、そして壁に映るそれらの影という虚像。そして各所に現れる影の映像(田口はこれを虚像の虚像と呼んでいる)。そしてスクリーンの向こうにある空間の中で作業をする田口自身の影。一見投げやりに見えるがしかし周到に配置された日用品の構成が作品なのか、それともそれらが壁に落とす影が作品なのか、影が映す田口のパフォーマンスが作品なのか。いや、それら全てが補完しあってこその作品だと得心がいった瞬間にも、かたちは崩され、新たな像を結んでゆく。それは田口が会期中にモノの配置の解体と構築を続けるからだけではない。ギャラリーを訪れる鑑賞者のシルエットの介入が、常にかたちに変化をもたらすからである。こうして、作品を観に来た誰もが解体/構築の共犯者となる。

実像と虚像、芸術と日常、静と動、主体と客体、これらの相反するものごとが境界線を侵犯しながらわたしたちにそこで見せるものは、それこそ作品と呼ばれしものの束の間の幻影なのだろうか。ならばその幻影の洞穴にこの身を置いた私たちは、一体どのような真実を見るのだろう。

高橋瑞木企画:「接触領域」
ミュージアムやギャラリーといった場所だけでなく、表現や創作行為自体が異なる時間や地理、そして他者を引き合わせる接触領域となる場合がある。そのとき、行為の主体はおそらくその領域の開墾者としての責任が問われ、作品から自立した存在とはなりえないだろう。

「主体」と「責任」-このふたつを、重い足枷として引き受けるのではなく、解放された問いとして昇華することは果たして可能か。接触領域には、他者が巻き込まれたり、招き入れられたりすることがある。あるいはあえて他者を排除することで誘発される接触もあるだろう。そしてその領域を拡大することによって偶発的な出来事がおこり、主体がそれに対する判断を迫られる場合もあれば、領域を囲い込むことで主体そのものが自らを問いなおす場合もある。

いずれにせよ、パブリックとプライベートが入り乱れる接触領域が人前に晒されるとき、それは複雑さを増しながら疑問や共感、反発を生むだろう。摩擦を生じながら別の次元へと領域がトランスフォームしていき、主体と客体の間に相互作用がおこることを期待している。

コメント:田口行弘
私は、2005年から現在に至るまで拠点をベルリンに制作活動しています。近年の代表作である「Moment」(2007, 2008年)という作品では、会場であるギャラリーの床板(床)を素材に、それらを展覧会期間中少しずつ動かしながら日々変化するパフォーマティブ・インスタレーションとして作品を発表しました。また、その変化する作品の様子の一瞬一瞬をデジタルカメラで写真を撮り、その写真を繋ぎ合わせることで出来るストップ・モーション映像は、その変化の過程を見ることができるドキュメント/映像作品として同時に発表。それ以降の作品は、主に日常的なモノを素材として、屋内や野外の空間や構造物・風景が変化するという変化そのものをテーマにした作品を世界の様々な地域で多数発表してきました。

今回ギャラリーαMでは、これまでの作品制作から気づいたこと、「モノを動かしていく中で必ず現れるそのモノの影」に焦点を当てました。そして、影/虚像そのものをテーマにギャラリーの所有物や日用品などを用いて会期中日々変化するパフォーマティブ・インスタレーション作品を試みます。それは、モノの影によって出来る風景や空間の変化、実像と虚像を反転、虚像の影などの顕在化を試みる行為です。そして、期間中の週末には作品の変化のうちの一つとして、本展覧会のテーマに沿った食事会や音楽コンサート、映画鑑賞会などの関連イベントを企画し、来場者との発見や出会いをつくるきっかけをつくることができればと願っています。また、展覧会の変化の過程と結果を繋ぐ要素として、その変化の過程の一部始終を記録し、結果の一つとしての映像作品を発表します。

ちなみに、本展覧会のタイトル/コンセプト「cave」(洞窟)は、ギャラリーαMが地下室と言う立地条件を洞窟に見立てるということや、プラトンの書物「国家」の「洞窟の比喩」からヒントを得ています。この度、日本でこのような展覧会を出来るチャンスを頂いたことを有り難く受け止め気合いを入れて作品制作に取り組ませて頂きます。
2010年 田口行弘

田口行弘 たぐち・ゆきひろ
1980年大阪生まれ。2004年東京藝術大学美術学部絵画科卒業。2005年よりベルリン在住現在、身体性を強調したパフォーマティブ・インスタレーション、ストップモーションによる映像作品を、おもにドイツの多数の展覧会で発表。主な個展に2009年「Document Studio 2009」SAKAMOTOcontemporary(ベルリン)、「uber」無人島プロジェクション、2008年「uber」SAKAMOTOcontemporary(ベルリン)、「A Window to the World/世界に開かれた映像という窓」広島市現代美術館(広島)、「Moment -Performatives Spazieren-」galerie air garten(ベルリン)、「Ordnung -performative installation-」GDK-Galerie der Kunste-(ベルリン)、2007年「Moment-performative installation」galerie air garten(ベルリン)など。主なグループ展に、2009年「第12回 文化庁メディア芸術祭」新国立美術館、「Re:Membering -Next of Japan-」(韓国)、「A Blow to the Everyday」(香港)「5+1ジャンクションボックス」(東京)など国内外を問わず多数。主な受賞歴に文化庁メディア芸術祭優秀賞(2008年)、アジアデジタルアート大賞優秀賞(2008年)、世紀のダヴィンチを探せ! 国際アートトリエンナーレ2007大賞2007年など。

会期中のおもなイベント(5月の毎週土曜日にイベントを開催します)
「みんなで影絵をつくろう!」 5月1日(土)11時~18時
「映画鑑賞会」 5月8日(土)18時~19時30分(映画本編は66分)
「Music Live 音楽ライブ」(by 馬喰町バンド) 5月15日(土)17時30分~20時
「クロージング・パーティー(食事会)」(by南風食堂) 5月22日(土)18時~21時

※全文提供: gallery αM

最終更新 2010年 4月 17日
 

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