謄写版の冒険 卓上印刷器からはじまったアート |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2013年 1月 25日 |
戦前・戦後を通して、手軽な印刷術として親しまれた謄写版(とうしゃばん)。その謄写版によって表現意欲に目覚め、美を求めて、技術を芸術にまで高めようとした人々の活動を追います。 古典的な印刷術の3つの版式、凸版(とっぱん)、凹版(おうはん)、平版(へいはん)は今日もなお美術の分野で木版画、エッチングなどの銅版画、リトグラフとしてそれぞれ生き続けています。しかし謄写版は、コピー機、ワード・プロセッサー、パーソナル・コンピューターなどの発展によって印刷技術としての役割を終えるとともに、版画をはじめ創造的な表現の分野での業績も忘れられつつあります。それは、作品の作り手が、同時に産業としての謄写版印刷の担い手であったためかもしれません。 本展は、この謄写版印刷が存在し、最も個人に身近な印刷術として、近代の出版、表現活動に貢献した事実を見直し、挿絵や図案からはじまった版画の試み、魅力的な文字デザインなど、時代を超えて評価されるべき創造的な側面を再発見しようとするものです。 主な出品作品は、和歌山市で謄写印刷工房「蝸牛工房(かぎゅうこうぼう)」を営むかたわら版画の制作を続け、日本版画協会展や国画会展で活躍した清水武次郎(しみずたけじろう1915-1993)ほか、謄写版によって独自の作品世界を創造した福井良之助(ふくいりょうのすけ1923-1986)、謄写版による創作版画を提唱した若山八十氏(わかやまやそうじ1903-1983)らの孔版画です。さらに、若山を中心に集まった「甃土会(しゅうどかい)」「点の会」の作家たちをはじめとする謄写版画家たちの作品を加え、謄写版から発展した孔版画の魅力を普及しようとした活動の広がりを示します。そして、これらの作品に並行して、各地で謄写版印刷工房を開いて地方文化の創造をめざしつつ、謄写版誌の刊行などを通じて各地の作家とつながりを作り、制作を続けた無数の人々の活動を示す資料をあわせ、知られざる日本近代版画史を検証します。 作品と資料およそ250点を展示する予定です。 【会期中のイベント】 全文提供:和歌山県立近代美術館 会期:2013年2月9日(土)~2013年3月24日(日) |
最終更新 2013年 2月 09日 |