1965 年ヴェネツィア生まれのモニカ・ボンヴィチーニは、慣習や社会的なコノテーションに注目し、空間や権力、そしてジェンダーの関係を探究する作家です。その 作品形態も、立体、インスタレーション、写真やビデオ、紙作品、と様々なかたちで展開されています。鉄やガラスといった伝統的に「雄々しい」とされる、モ ダニズム建築を参照した工業材を作品に用い、それらを革、鎖、ゴムといった性的フェティシズムを想起させるものと結びつけることで、ボンヴィチーニは私た ちを取り囲む建築がもつ力構造や性的誘惑と対峙しています。一方で、彼女の作品は労働、性、政治、社会表象の間に築かれている関係を暴くものでもありま す。
本 展では、立体作品で構成されるサイトスペシフィックなインスタレーション《Straps and Mirror》をメインスペースで展示します。SM カルチャーを暗示する皮ヒモやハーネスで吊るされた鉄製の足場に、巨大なガラスミラーが固定された本作は、男性中心的な建築史への批判に加え、物理的空間 と社会的空間の相互関係への考察、そしてモダニズム建築における機能と美学の関係を脱構築するものでもあります。鏡が作り出す空間に置かれた作品がもつ攻 撃的な存在感、そして工業材の使用は、建築物や建築空間が決して中立的なものではなく、イデオロギーやセクシュアリティに満ちていることに気づかせてくれ ます。
同 時に、ミニマリズム彫刻に対するひとつの註釈としても彼女の作品は提示されています。 本展ではまた、「RUN」や「RAGE」といった単語、そして彼女の作品でしばしば目にするヒモや鉄鎖に似たパターンが描かれた《Off the Grid》シリーズの中から、黒のテンペラで描かれたドローイングを展示します。ドローイングは彼女にとって、主題に取り組むプロセスで獲得した気づき を、個人的かつ直接的なかたちで表現しうる手段として捉えられています。
ま た、黒革でぴたりとくるまれた工具が台座に乗せられた立体作品《Leather Tools》や、ラジオペンチの形をした刺繍が赤い糸で紙に縫い付けられた作品《NeedleKnows》も展示される予定です。ラジオペンチはフロイト 的な象徴作用を参照するものとして、そしてボンヴィチーニがシンボルとして多用する針は、ファルス(男根)的なオブジェとして捉えられています。
モ ニカ・ボンヴィチーニの作品はこれまで、個展やグループ展として世界各地で展示されています。ヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞(1999)やドイツの Preis der Nationalgalerie für Junge Kunst(2005)を受賞し、2012 年には巨大な野外彫刻《RUN》が、ロンドン・オリンピックのコミッションワークとして、オリンピック・パークに恒久的に展示されています。今回のラット ホールギャラリーでの個展は、日本ではじめてボンヴィチーニの作品に触れることができる機会となります。
[作家プロフィール] Monica Bonvicini (モニカ・ボンヴィチーニ)
1965 年 ヴェネツィア生まれ、ベルリン在住。
<学歴> 1986-93 年 Hochschule der Künste(ベルリン) 1991-92 年 California Institute of the Arts(ヴァレンシア) <主な個展> 2012 年 DESIRE DESIESE DEVISE - DRAWINGS 1986-2012, Deichtorhallen Hamburg(ハンブルグ) Desire Desiese Devise, Städtisches Museum Abteiberg(メンヒェングラットバッハ) NeedleKnows, Galerie Max Hetzler(ベルリン) 2011 年 A Black Hole Of Needs, Hopes and Ambitions, Centro de Arte Contemporaneo de Málaga(マラガ) 2010 年 Both Ends, Kunsthalle Fridericianum(カッセル) Bet Your Sweet Life, Galerie Max Hetzler(ベルリン) 2009 年 Focus: Monica Bonvicini—Light Me Black, The Art Institute of Chicago(シカゴ) MUSEION, Museum für moderne und zeitgenössische Kunst(ボルザノ) Monica Bonvicini, Frac des Pays de la Loire(カルクフー) Increased Anxiety, Sleeping Problems, Sexual Problems, Nausea, Diarrhea, Grieder Contemporary(チューリッヒ) 2007 年 What does your wife think of your rough and dry hands?, Bonniers Konsthall(ストックホルム) Monica Bonvicini, SculptureCenter(ニューヨーク)
<主なグループ展> 2012 年 Portfolio Berlin 02, Kunsthalle Rostock(ロストック) Utopie Gesamtkunstwerk, 21er Haus(ウィーン) La Triennale 2012 - Intense Proximity, Paris(パリ) 2011 年 Before the Law, Museum Ludwig(ケルン) Melanchtopia,Witte de With Center for Contemporary Art(ロッテルダム) Dublin Contemporary 2011, Dublin(ダブリン) The 54th International Art Exhibition: ILLUMInations, Venice Biennale(ヴェネツィア) 2010 年 The New Decor, Garage Center for Contemporary Culture(モスクワ), Hayward Gallery(ロンドン) Under Destruction, Museum Tinguely(バーゼル) Hospitality. Receiving Strangers, Muzeum Sztuki(ウッジ) Spatial City: An Architecture of Idealism, Museum of Contemporary Art Detroit(デトロイト)、Hyde Park Art Center(シカゴ)
全文提供:RAT HOLE GALLERY
会期:2012.11.2~2013.2.3 時間:12:00 - 20:00 休日:Mon、12/29-1/7 Winter vacation 会場:RAT HOLE GALLERY
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