小谷元彦:幽体の知覚 |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2010年 8月 14日 |
小谷元彦は、東京藝術大学で彫刻を学んだ後、彫刻、写真、ビデオ等さまざまなメディアを用いて精力的に作品を発表してきました。その独特の造形表現と美意識は国内のみならず海外でも高い評価を受け、2003 年にヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表の一人として選ばれたほか、イスタンブール・ビエンナーレや光州ビエンナーレに参加するなどのめざましい活躍を見せています。 石や木を素材とし、肉体的な作業と膨大な時間を費やして形を表現する彫刻というメディアは、おのずと量感、物質性、実体感を伴いますが、小谷はこの彫刻の性質に抗うかのように、目に見えないもの、実体のない存在や現象、いわば「幽体」(ファントム)をさまざまな知覚現象を通して視覚化しようと試みます。この姿勢は、表現形態は変わりつつも小谷の作品に一貫して表れています。本展では、小谷の初期から最新作までを通して紹介し、その表現の本質を探ります。 小谷は、恐怖、痛み、不安、皮膚感覚などの抽象的な身体感覚や精神状態を作品として具体化し、私たちが普段忘れているもの、あるいは見ないようにしてきたものを目の前に突きつけます。毛髪でできたドレスや拘束具を着けた動物、異形の少女、やせ衰えた武者の騎馬像、激しい滝の水流など、一つの解釈に帰着しない多層的なイメージは、美と醜、生と死、聖と俗の境界線上にあり、見る者の潜在意識や神経を刺激しつつ、妖しい魅力を放ちます。また、しばし ば小谷が制作する映像作品は、彼にとって時間を操作することのできる彫刻表現であり、不可視なもの、不可逆なものを取り出す装置として有効に機能しています。 本展では、10 年以上にわたって発表してきた小谷の作品の数々に加え、「映像彫刻」とも呼ぶべき体験型の大型映像インスタレーションや、重力、回転、循環など、世の中のしくみや生の営みの根幹となる現象を追求した作品を新作として紹介します。従来の彫刻の概念を超えて、存在の形をあらゆる方向から捉えようとする小谷の作品を通して、可視と不可視、肉体と精神の境界を探る美術表現の魅力と可能性に迫ります。 小谷元彦 略歴 ※全文提供: 森美術館 会期: 2010年11月27日(土)-2011年2月27日(日) |
最終更新 2010年 11月 27日 |