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日本のデザインミュージアム実現にむけて展
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2013年 11月 11日

 

本展の企画者にとって、すべての始まりは三宅一生氏による 2003 年の新聞記事「造ろうデザインミュージアム」でした。それから10年、ミュージアム設立を目指してさまざまな動きが起こる中で、私たちに何ができるのか。その答えが、これまでの展覧会と付随する活動を再構築する本展です。企画は、故事に由来する「隗かいより始めよ」という方針で一致したのです。

デザインはこれまで、モノづくり〈MAKING〉を中心に捉えられてきましたが、それ以前にモノとコトと仕組みを発見する〈FINDING〉、同時に地域を世界につなぐ〈LINKING〉というテーマが必須だと考えました。 そして真に創造の名に値する〈CREATING〉には、田中一光氏をはじめとして今は亡き6名の表現者を含んでいます。なお、各展覧会の解題とバナーは企画者が作成したものです。

デザインの送り手が現場でどんなに悪戦苦闘しても、受け手にとってデザインは愛、夢、そして贈物でありたい。それでこそ、語り尽くせないデザインの魅力が生まれるでしょう。送り手と受け手と語り手の間にあるデザインミュージアム。本展によって、だれもがその入口に立ちたいと思ってくだされば幸いです。

森山明子、佐藤 卓、深澤直人

[企画者コメント]
『2045 年問題 コンピュータが人類を超える日』で著者の松田卓也氏はローマ・クラブの『成長の限界』に言及している。マサチューセッツ工科大学のメドウズに依頼した人類の未来に関するコンピュータ・シミュレーションの結果が 1972 年刊のその書籍である。ニクソンショックとオイルショックが相前後して起こったこともあり、反響は甚大だった。

岡 秀行企画の「包む・日本の伝統パッケージ」は 1975 年のニューヨーク展以降、卵苞(たまごつ)とをシンボルに28 カ国 99 回の展示を重ね、各地で美術館の入場者数を塗り替えた。今回、日本のデザインはどう定義づけられてきたかを探る過程で、この包む展の反響を『成長の限界』と結びつけるべきことに思い至った。
2007 年オープンの 21_21 DESIGN SIGHT にあって、多くの卓越した方々が参加したこれまでの企画展には 21_21 ならではのデザイン思考が見てとれた。それをワードにすれば、FINDING、MAKING、LINKING、CREATING の 4 つで、第 3 の LINKING とは地域を世界につなぐ〈東北/ 祈り/ユーモア〉の系のこと。『成長の限界』、さらには東日本大震災と原発事故、そして 2045 年問題に向け、21_21 にはあるべきデザインの世界を示すことも課せられたように思う。

今回の 21_21 DESIGN SIGHT ディレクターたちとの Fellowship—友愛に満ちた共同企画のプロセスがデザインミュージアムについて思考をめぐらすまたとない機会となったことに感謝し、「Toward a DESIGN MUSEUM JAPAN」をタイトルに掲げる本展において来たるべきミュージアム像が浮かび上がることを願っている。

森山明子



日本にはまだ、本格的なデザインミュージアムがひとつもありません。このことは、意外と知られていません。
日常会話において「デザイン」という言葉は、今や「美術」や「芸術」という言葉よりもあたりまえに使われるようになったにもかかわらず、絵画や彫刻などの美術館は各地域に数々ありますが、コレクションの域を越えたデザインミュージアムは1つも無いのです。

その理由としては、多々思い当たることがあります。美術には歴史があり、デザインは歴史が浅いという誤解もあるでしょう。近代デザインは、生活のためというよりも、経済を回すための道具としてしか理解されていない側面も否定できませんから、そもそもデザインとは何なのかが一般的にはよく分からないものに至っていることも事実としてあると思います。それはつまりデザインというものを、未だにカテゴリーとして理解しようとしているからに他なりません。

しかし、よく考えてみてください。デザインを必要としない物事は、はたして人の営みの中に存在するでしょうか。実は我々が日常使っている言葉そのものもコミュニケーションを成立させる重要なデザインですし、それを目に見えるものにした文字は正にデザインの象徴です。実は、政治・経済・医療や街の仕組みすべてにデザインが必要なのです。このようにデザインはカテゴリーではない、ということが近年急速に分かってきました。いったいデザインとは何なのか。それを示し、保存し、考え続ける装置として今、デザインミュージアムを日本につくる必要があるのです。

佐藤 卓



世界から見ても、日本人も皆、日本にデザインミュージアムがないことを不思議に思うだろう。これだけ美意識が高く、精緻(せいち)なものづくりに長け、持続可能な生活の基盤を築いてきた国民性と、豊かな四季と自然を持つ国土が生活そのものの美と深く関わり、質素であっても豊かでまじめな気質は、たぐいまれな美の文化と生活の道具に見出した美学を育んできた。その事実は既に世界がみとめたものであり、それこそデザインそのものといえよう。人とものとそれを取り巻く状況や環境の相互の調和と釣り合い、そしてそれぞれの関係を美と定め、全体として完結した世界を目指してきた。近年になっては、かたちや姿、色、装飾をデザインと定義してきた概念も変わりつつあり、機能は残りつつも、かたちを論ずる部分は減り、ものと人、物と物がどのような関係を持つかをデザインすることが求められるようになった。
繋がりやコミュニケーションのデザインといってもいいだろう。さらに自然との共生もデザインの大きな柱となり、相互の円滑な関係性はデザインによって成されるようになってきた。

このように、生活の変化に歩調を合わせながら概念を少しずつ変えてデザインをずっと見つめ続けて行く場としてのデザインミュージアムの存在は、日本独自の仕組みと形態を有し、且つ、世界との繋がりを切らすことのない新しいものとして誕生すべきときが来ていると思う。

深澤直人

全文提供:21_21 DESIGN SIGHT


会期:2013年10月25日(金)~2014年2月9日(日)
時間:11:00~20:00(入場は 19:30 まで)
休日:火曜日(12 月 24 日は開館)、年末年始(12 月 27 日~1 月 3 日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT

最終更新 2013年 10月 25日
 

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