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牧田愛:13・17
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 9月 27日

Cosmoplastics
194cm×130cm,oil on canvas,2013
※実際の展示作品とは異なります。

このたび AI KOWADA GALLERY では牧田愛の個展 ”13・17” を開催いたします。 手で描いたとは思えない程緻密で精巧な機械のイメージは見る者を圧倒しますが、その裏には 牧田の持つ人間や自然界への深遠なまなざしが潜んでいます。

一見冷たく見える無機質なモチーフは、実際に対峙してみると血管のように生々しく、 テクノロジーを生み出すことで自然の崇高性に近づこうとする人間の生命の営みが感じられるようです。



◆ 臓器を思わせる流線型や、硬質な金属の光沢を描いた牧田愛のペインティングはオートバイを連想させる。 事実、作品のモチーフになっているのはハーレーダビドソンなどの名車で、エンジンなどのパーツを写真で 撮影し、コラージュして描くことで作品は完成する。

「昔は大型二輪を運転していたこともあるんです」と語る牧田の話を聞くと、オートバイのフェティッシュ を緻密に描くことが目的にも思える。だが、彼女の目指すものは違う。

「個人では把握できない科学技術の巨大さや、人の力では制御できない自然災害といった、圧倒的な事象に 興味があります。オートバイを素材にしているのは、機能とデザインが合理的に融合した形状が、 テクノロジーの得体の知れなさにつながっているように思うから。撮影したオートバイのパーツをキャンバス 上で再構成することで、より大きな何かをかたちにすることができる気がします」。

今年 3 月、東京藝術大学大学院の修了展で発表した《Cosmoplastics》は、その集大成と言うべき横約 2m、 縦約 1.3m の大作だった。機械部品のキメラのような同作は、世界の法則を統御する機械の怪物だ。

「10 月の本個展には、ほぼ同サイズの作品を発表します。モチーフにするのは素数ゼミ。 13 年と 17 年の周期で大発生することから周期ゼミとも呼ばれていて、発生原因はまったく不明。 そんな謎めいたところにも、自然というテクノロジーの強大さや、畏怖の念を覚えるんです」。

18 世紀、カントは人知の及ばぬ大自然の事象から「崇高」の概念を定義し、同時代の美術に影響を与えた。 人の生活を助けもすれば、脅かしもする機械を描く牧田は現代の崇高を体現しようとしているのかもしれない。

Text by 島貫泰介

[作家コメント]
20世紀の神話学者カール・ケレーニイは、「ゾーエー/ビオス」の概念を提唱した。ゾーエーとは、生命全体を包み込む生の悠久の流れ、宇宙的な生のダイナミクスのことを指し、ビオスとは、ゾーエーの流れのなかで限りある生命を全うしようとする個々の生命を指す。私たち人間の生命はビオスにあたる。私の制作における目的は、私たち(ビオス)が生きている有限的な社会と平行して、終わることなく(死ぬことなく)ゆっくりと時を刻むゾーエー的な「生」の流れを、イメージとして描きだすこと。

金属的なモチーフは、「ゾーエー/ビオス」の概念を現代社会に照らし合わせて述べた哲学者、金森修の「装甲するビオス」から参照している。金森によると、人間は鎧をまとうように科学技術を発展させ、有限的生命を増強しようとする。私はこの「装甲」のイメージとして金属的モチーフを選んでいる。

今回の作品では、暗きを照らすライトを頭部に持つ蝉たちが、混沌の世界に警笛を鳴らすように、不気味に飛び回っている。

作品タイトル「13・17」は、アメリカで13年と17年の周期で大発生する「素数ゼミ」から引用した。種の保存のためなど諸説あるが、この周期で大発生する決定的な根拠は未だ解明されていない。私はこのような未開の謎を、ゾーエーとビオスの中間部分(装甲するビオスではない、限りなくゾーエーに近い剥き出しの生)と捉え、ふだん気づかないゾーエーの存在を想起するきっかけとして興味深く見つめ、イメージとして描き出したい。

2013年 牧田愛

[作家プロフィール]
牧田愛(まきた・あい)

1985 年千葉県生まれ。2008 年筑波大学芸術専門学群美術専攻洋画コー ス卒業。2010 年東京学芸大学大学院教育学研究科
美術教育専攻総合美術コース卒業。2013 年 東京藝術大学大学院芸術学専攻美術教育研究科修了。主な個展は、「SIGNS OF LIFE
‒生命の気 配 -」( 新宿伊勢丹、2013 年 )。主なグループ展に「EXHIBITION C-DEPOT」( スパイラル、2011
年、 2012 年 )、「Jewels」(画廊くにまつ青山、2012 年)、「アートフェア京都」(画廊くにまつ・ホ
テルモントレ京都、2011 年)、「アートフェア東京」(画廊くにまつ、2012 年、2013 年)、「銀座
三越が選ぶ期待の申請コレクション・ファイル #1」( 銀座三越、2013 年 )。

第 76 回独立美術協会展 新人賞(2008 年)受賞。ART AWARD NEXT II(東美アートフォーラム、 2012 年)入選。


全文提供:AI KOWADA GALLERY
会期:2013年10月5日(土)~2013年10月26日(土)
時間:12:00 ~ 19:00
休日:日・月曜、祝日
会場:AI KOWADA GALLERY
最終更新 2013年 10月 05日
 

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