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鎌田友介:D construction
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 7月 03日

 

児玉画廊|京都では6月22日(土)より8月10日(土)まで、鎌田友介個展「D construction」を下記の通り開催する運びとなりました。
2011年の個展「After the Destruction」(児玉画廊, 京都)および、2012年の個展「D Structure」(児玉画廊|東京)において、 物体の構造について「空間性」「パースペクティブ」「視覚」等の見地から様々に考察する作品を発表してきました。ガラスや鏡の 透過性、反射によって空間を拡張し、構造を撹拌するインスタレーションや、錯視を利用した立体作品など、いずれも作家の多視点 的な思考を表象すべく多くの意味を内包します。例えば、本来は平面上でなされる立体図法(投影図法や透視図法など)に基づいて立 体構造物を構成する「D. Frame」シリーズでは、見る位置によって遠近法に目が騙されて、実際にはフラットな構造であるにも関わ らず壁から突き出ているように錯覚したり、逆に三次元的な構造であるにも関わらず壁画のように平面的に見えたりするのです。こ の多視点的な構造によって、鑑賞者が「どんな形なのかが分からない」ように混乱させること、そして、それは認識の拠り所が破壊 されてしまったような不安へと心理的に結びついていきます。作品の構造、視覚遊戯的な発想、空間的なダイナミズム、こうした表 立った特徴はそれだけで見るべき価値を生んでいます。しかし、鎌田の制作の本質は、ある一つの視座によって認識が規定されてし まう事に対して批評的な見地を示すことによって、我々を取り巻く世界に揺らぎを与える行為であるのです。
「D Structure」展において特に「破壊」をテーマとして取り上げたことはその思考の第二段階として大変興味深い示唆を与えまし た。鎌田にとって、構造の歪みは視覚の歪みであり、物体の破壊は認識の破壊と重なり合うのです。直方体を菱形に歪めること、空 間を鏡やガラスを使って誤認させること、それらは全て「物質をフィジカルに破壊」することによって感覚と認識を多元的に開くこ とである、というように思考を転回させたのです。そうすることで、ズレや歪みや捻れといったある種の揺らぎとして表現されてき たものが、明確なる「破壊」の形を取ることでより強固に示されました。メインの作品として出品された「D Structure (destroy)」 においてはガラスを叩き割り、物体を打ち砕き、鏡によって視線と構造を撹乱するなど、愚直なまでに「破壊」をビジュアライズを してみせました。この構造や物体を「破壊」することを踏まえた上で、本展では思考を第三段階へと移行させました。
目に見え、手に触れられる物体の「歪み」や「破壊」によってではなく、今度はより概念的な事象を題材に自身を含む世界を再構 築しようと言うのです。まず手始めに自身のルーツを辿るリサーチから始め、自分や両親の出自、生活環境、関心事など自らにまつ わる様々な事柄を拾い集めました。そして、縁のある土地を巡り、文化、産業、建築など多角的な視点から調査を進め、自分を起点 としたあらゆる要素のマッピングを試みました。その過程で、自分のルーツといくつかの歴史的事実との接点を見出すに至ります。 父親の勤務する石油会社と両親の出身地新潟にある石油採掘場との直接的な関係、そして現地で目にした採掘用鉄塔と送電塔の形態 的な類似、エネルギー資源としての石油と原子力、新潟柏崎原子力発電所、そして爆心地広島・長崎、戦争の歴史。あらゆる事柄が 鎌田の思考によって複雑に連鎖していきます。本展で鎌田が提示するのは、関係性という構造体の視覚化であり、思考のマッピング であり、自身のルーツとの関係性から歴史に対する個人的批評と見解を得るための作品です。
新潟の石油採掘場の鉄塔からイメージした星形の照明、原爆の爆縮レンズの構造からなる照明など、展示空間に吊るされた5つの 照明装置は、地下に眠る石油を採掘し、エネルギーを得て、兵器として上空から地上に落とされるまでの破壊の流れを、垂直方向の パースペクティブとして捉えたものです。星のようにそれらが照らす下方にはリサーチ内容にまつわる写真やテキストをマッピング したテーブル、グーグルアースで世界中の核実験場跡地を別の惑星に見立てて巡航する映像などを、水平方向のパースペクティブと して展示致します。壁面には、リサーチの過程で撮影した風景や建築物の写真をプリントし、そのプリント面を鏡のようにして別の 風景を映し込み再撮影するという多層化された写真作品が掛けられ、それぞれが鎌田個人と歴史とを関連させる編み目の交点として 提示されます。「エントロピーのモニュメントとして」と鎌田は言いますが、「鎌田友介」を起点とした一つの構造体の様相を呈す 今展覧会において、作家自身を取り巻く様々な事象が交じり合い、そしてより大きな歴史へと関係性を広げ、エネルギーを増幅しな がら溜め続けていく様は、どこか「破壊」的なカタストロフィを予感させます。しかし、鎌田の目はその先を見据え、「破壊」と構 築を繰り返す歴史についての思惟をこの関係性の系へと映し出すのです。つきましては、本状をご覧の上展覧会をご高覧賜りますよ う、何卒宜しくお願い申し上げます。

敬具
2013年5月
児玉画廊 小林 健


全文提供:児玉画廊 | 京都
会期:2013年6月22日(土)~2013年8月10日(土)
時間:11:00 - 19:00
休日:日・月・祝
会場:児玉画廊 | 京都
最終更新 2013年 6月 22日
 

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