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黒須信雄 展
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2013年 4月 24日

伊都能賣 No.8
2010
キャンバス、アクリル絵具
410x273mm(P6)

[作家コメント]
『創世記』では「光有れ」との神の言葉とともに光が顕れる。この場合の光とは広義に見て存在と同義である。概ね絶対神を戴く思考は存在を基底にしているが、無論それは形而上学に於てばかりでなく、具體的に思考し得ないと云う點で〈存在以前〉は存在論の範疇からも外れるものだろう。
それに対し、『古事記』冒頭の獨神は出現即消滅であり、「有れ」と云う意味での存在には未だ至らないと同時に、すべての果てに既にして顕在してもいる。当然ながらそれは、前にも述べたように具體的に思考し得ないゆえに現実との接點を持たない。存在ならざるものに触れることは存在者にとって事実上不可能なのである。然しそれなら何故、獨神などと云う奇妙なものが考えられたのだろうか?おそらくそれは論理的に導かれたものではなかろう。否、そもそも「光有れ」と云うのも現実観察から論理的に導かれたものではなく、原感覚が存在の発出相をそう把捉したのではないか。ならば、古代日本には原感覚として存在を「有れ」の側にのみ固定するのに満足しない傾きがあったのかも知れない。寧ろ存在と非在のあわいにこそ世界の起源を見たのかも知れない。
〈あわい〉の感覚。それは獨神のみならず、国生み神話で蛭水子を最初の子としてすぐに流して了うことにも、黄泉比良坂での死の復相性にも、天之岩屋戸に於て明かされる闇の視覚の階梯にも、須佐之男の彷徨にも、濃密に満ちている。存在の彼方に〈有りもしない〉ものを透視すること、これは実の処、時としてアニミズム的であり唯一的な価値を持たないと評される神道的思考に於ける絶対価である。
存在に立脚しないことが存在形式の転換への重要な契機となるのは云うまでもない。無限階梯の顕現と喪失を内在化することに於て絵画が自律的に成立することに鑑みれば、『古事記』上巻に揺曳する〈何ものでもない〉未成とあわいの感覚が教える処は尠なくない。
更に、本質的に〈虚〉に据えられる絵画は〈無〉と云うゼロポイントを通して〈実〉に対照されるが、存在以前と云う〈有りもしないもの〉を意志することによって〈虚〉から更なる〈虚〉へのゼロポイントの不可能性を可能事の極限に開示しもする。そこに於ては、一切は溶解して了うかもしれない。絵画に於けるそのような試みは現実的には何も齎さないかもしれない。然し、仮に非現実的にではあっても想起され得るものならば、必敗の覚悟を以て挑むに如くはないのではないか。
おそらく絵画は既にして何処にも有り未だ何処にも無いのである。

二〇一三年四月記
黒須 信雄

[作家プロフィール]
黒須信雄 KUROSU Nobuo
1962年 東京生まれ
1988年 多摩美術大学絵画科油画専攻卒業

個展
1989年 なびす画廊(東京)
1990年 なびす画廊(東京)
1991年 Cafeアトリエ(東京)
Gallery+1(東京)
1992年 なびす画廊(東京)
西瓜糖(東京)
Cafeアトリエ(東京)
1993年 ルナミ画廊(東京)
Cafeアトリエ(東京)
1994年 なびす画廊(東京)
1995年 ギャラリーU(東京)
1996年 藍画廊(東京)
1997年 藍画廊(東京)
1998年 なびす画廊(東京) 
1999年 なびす画廊(東京)
西瓜糖(東京)
2000年 なびす画廊(東京)
2002年 なびす画廊(東京)
2003年 なびす画廊(東京)
2005年 なびす画廊(東京)
2006年 藍画廊(東京)
2007年 なびす画廊(東京)
2009年 なびす画廊(東京)
2011年 なびす画廊(東京)

グループ展
1986年 「空房月華」(小野画廊/東京)

1987年 「・・・のしっぽ」(世田谷美術館区民ギャラリー/東京)

1990年 「箱 −さまざまな時− 展」(二宮美術館)

「MITO 10月展」 (水戸芸術館/茨城)

1992年 「鳥(バード)展」(北とぴあ/東京)

1993年 「COLLABORATION」(淡路町画廊/東京)

1996年 「起源」(Za Gallery/東京)

1999年 「TEN」(藍画廊/東京)

「牧神アンデパンダン」(牧神画廊)

2001年 「2月のおくりもの」(なびす画廊/東京)

2002年 「美と術」(藍画廊/東京)

2004年 「黒須信雄・橋本倫 展」(ギャラリエ・アンドウ/東京)

「2月のおくりもの」(なびす画廊/東京)

2005年 「生誕100年オマージュ長谷川沼田居展」(足利市立美術館/栃木)

「第20回 平行芸術展 崩落の記譜法」(小原流会館/東京)
2006年 「New Year's Card by Japan Artists」(Beograd/Senta/Sokobanja)

2008年 「ラディカル・クロップス プレ展」(exhibit Live&Moris/東京)

「DE MYSTICA〜召命〜」(ギャラリー アート・ポイント/東京)
「第27回損保ジャパン美術財団選抜奨励賞」(損保ジャパン東郷青児美術館/東京)

「絵画のコスモロジー 小山利枝子,黒須信雄,橋本倫」(多摩美術大学美術館/東京)
「京橋3-3-8」(藍画廊/東京)

2009年 「DE MYSTICA第2回展-\"アート\"全盛期における"美術"-」(なびす画廊/東京)

「THE LIBRARY〜「本」になった美術〜」(静岡アートギャラリー/静岡)

2010年 「カイガのカイキ」(足利市立美術館/栃木)
「THE LIBRARY ASHIKAGA」(足利市立美術館/栃木)

2012年 「Resonance 2012 〜黒須信雄・土屋範人・星川忠資〜」(森田画廊/東京)

「虚光集(ひのみかげふみ) 江尻潔・黒須信雄展」(ギャラリー水・土・金/東京)
2013年 「新収蔵作品展 現代の絵画と彫刻」(足利市立美術館/栃木)
「版画天国」(なびす画廊/東京)


全文提供:なびす画廊
会期:2013年6月17日(月)~2013年6月29日(土)
時間:11:30 - 19:00(土曜17:00まで)
会場:なびす画廊
最終更新 2013年 6月 17日
 

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