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会田誠:天才でごめんなさい
編集部ノート
執筆: 田中 みずき   
公開日: 2013年 2月 20日

《滝の絵》
2007-10年
国立国際美術館蔵、大阪
Courtesy:Mizuma Art Gallery

漫画のような画風の作品があったり、小学生の書いたポスターのような作品が並んでいたりして一見敷居が低そうに装っている展覧会であるが、油断してはいけない。実は、日本美術の歴史(特に、近世・近現代)を知らなければ読み解けない、引用や日本近現代美術への批判に満ちた展覧会である。エログロなどの通俗的なイメージを盾にしながら、インテリ向けのテーマが隠されている点に関しては、60~80年代のピンク映画や日活ロマンポルノの世界に居た、先鋭的な監督たちと似たスタイルと言えるだろう。ただ、何も知らずに、何年かぶりに遠方から上京して六本木ヒルズに観光に訪れた老夫婦が偶然入り、意味もわからないままため息をついて会場を去る光景を眼にすると、美術を鑑賞しようとする意欲が薄れてしまわないかと危機感も覚える。会田自身による説明文が添えられていたり、一部の作品には18歳以下や性的表現を好まない人たちへの鑑賞を防ぐ事前通告があったりといった用意はあるものの、観光客も多く来館し、海外から来た人も訪れる森美術館という場所での展示を考えるなら、引用元となった作品のパネルを設置したり、参考とすべき美術史の流れを説明するうるさい位の作品解説を徹底するか、いっそ、入場料を高額にして、美術好きの大人のみに入場を促すといった仕掛けなどが必要かも知れない。

展示に関しては、作品数の多さや、大学生時代の作品から最新作まで展示がされていることから、会田誠という作家について統括的に知ることができる良い機会だと言えるだろう。しかし、インスタレーションの展示では、天井の高い展示室の大きさに対して作品が生かしきれていない妙な居心地の悪さがあり、当初は海外にて制作された作品などは空間などが変わるため展示が難しかったのかなどと邪推させて不満感が残ってしまうほか、作品の一部がオリジナル作品ではなく複製プリントであった(椹木野衣氏によるTwitter、2013年1月24日にても指摘)といった点も有り、憂慮が残る。

ともあれ、実験的な試みを続けてきた会田の仕事がまとめて見られる展示として、日本美術史の知識に基づき、覚悟を持って臨む分には有意義な展覧会だ。

最終更新 2015年 11月 04日
 

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