| EN |

小野耕石:Multiples
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2013年 2月 04日

小野耕石/ 鱗海(部分)/ インク / 2013

手書きで書いた点を版として、その同じ点にスクリーンプリントで100回以上様々な色を刷り重ねることで、インクの層を積みあげる手法によって小野耕石は作品を作る。その出来上がったものはそのまま版画作品としても成立する。通常の版画と異なり、同じ版を使いながらもエディション違いというだけの作品にはならないところが版画としては特殊である。

しかし小野の作品がより魅力的なのは、見る人の位置によって色の見え方が変わるのという点だ。2009年の資生堂ギャラリーの「shiseido art egg」の展示では数メートルもある作品が床に広げられ、観客はその周りを歩き、移り変わる色を体感できた。一定の大きさを越えるとむろん一枚の版画作品ではなく、複数の作品を組み合わせることで大きな1つの作品となる。大きさや色を組み合わせることで作品は「増殖」するように形も見る側の作品に対する印象も変化してゆく。

こうした平面作品の他に、一度できたインクの層の柱をそぎ取りこれを別の物にピンセットで丹念に貼り付ける「削柱移植」というシリーズがある。作家が岡山の「犬島時間」というグループ展に参加した際にそこにあった蝉の抜け殻に貼ることから始まり、その後は熊や鹿の骨を使った作品を試みている。2011年のアートフロントギャラリーの個展はその集大成であったと思う。特に「何に貼り付けるか」というもの選びが重要で、それによって形はもちろん、派生してくる作品の意味も変わる。まだ発展段階だとは思うが、その頃から本格的にインクの柱をキャンバスに貼り別の絵を仕立ててゆくことも試みはじめている。

今後も様々な方向に拡散/発展していく可能性を秘めた小野の作品スタイルであるが、今回のアートフロントギャラリーでの展覧会は資生堂の頃の原点に一歩立ち返り、インクの柱、その見え方の変化、特に増殖するように広がる組合せのパターンをより重視し、そこから新たな試みをしていくための基点となる展覧会となる。また、蝉でも頭蓋骨でもない、色の柱を貼りこむことによって新たな意味を加えられる「何か」を探す作業も展覧会の開催まで続けられるであろう。

アートフロントギャラリー  近藤俊郎

全文提供:アートフロントギャラリー


会期:2013年2月1日(金)~2013年2月17日(日)
時間:11:00~19:00
休日:月
会場:アートフロントギャラリー

最終更新 2013年 2月 01日
 

関連情報


| EN |