| EN |

第5回写真「1_WALL」グランプリ受賞者個展 清水裕貴展「ホワイトサンズ」
レビュー
執筆: 田中 麻帆   
公開日: 2012年 7月 28日

清水裕貴展「ホワイトサンズ」 メイン写真

  「ホワイトサンズ」は、アメリカ・ニューメキシコ州に位置する白い砂丘の名前である。ただし、展示の一連の写真の中では、この「白い砂」は単に特定の地名ではなく、砂漠になり、白い雪にもなり、朽ちた木、洗車場の廃液にさえなる、変幻自在で可塑的なイメージをはらむ。もしかすると、この風景を満たす透き通った陽光も「ホワイトサンズ」のイメージの一部かもしれない。

  旅先で撮った写真と日常の身近な写真とが混ざりあい、添えられたテキストと相俟って物語が思わぬ方向へ進んでいく。真っ白い景色の中では、平穏な日々と残酷な悲劇とが同じように淡々と語られ、その神話のような肌合いに、心の奥の深いところを揺り動かされるような感覚を覚える。現実の風景と名指せそうな写真もあれば、時折、モンタージュと見まごうものも垣間見える。黒い地にゆらゆらと光が横切る、暗闇の中の水面の写真。夜のガラスの向こうに見える室内を、手前に映り込んだ像が覆い隠す、二重映しの光景。水面に鏡写しになった水鳥は、幻の生き物のような姿を見せる。

  写真とテキストが導く物語の中では、動物たちも死者も、歴史的な事実も夢の中の出来事も、語り手と遠く離れた忘却の静けさの中にあるようで、実はそのすぐ耳元で喋っているような、奇妙な場所にいる。写真家は、砂地に伸びる自らのシルエットを写し、吸い込まれそうなうさぎの瞳には自身の像を映り込ませてもいる。しかし観者がこれらの影に見出すのは、写真を撮る清水という個人ではなく、彼女が紡ぎだす物語の一員となった自分自身ではないだろうか。

  なお、本展の写真家である清水裕貴は1984年生まれで、武蔵野美術大学映像学科を卒業したのち、2011年第5回写真「1_WALL」グランプリを受賞した。「1_WALL」はガーディアン・ガーデンで開催されるコンペティション制のグループ展。これ以前に30回開催されてきた「ひとつぼ展」がリニューアルしたものである。写真部門とグラフィック部門があり、ポートフォリオ審査やプレゼンテーションを含む二次の審査を通過した応募者が出品することができる。更に「1_WALL」での公開最終審査をもとに選ばれたグランプリ受賞者には、個展開催の権利が与えられる。清水は今回の個展「ホワイトサンズ」で、「1_WALL」でグランプリを獲得した写真と他の写真を新たに組み合わせて展示している。

  「ホワイトサンズ」は、語り手がどこかにある終着点を求めて旅をしているのではなく、時間のない夢の中で永遠に旅を続けているかのような、そんな不思議な魅力に惹き込まれる展示だった。


参照展覧会
会期:2012年6月25日(月)~2012年7月12日(木)
会場:ガーディアン・ガーデン
最終更新 2015年 10月 20日
 

| EN |