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成層圏Vol.5:宮永亮『風景の再起動』
編集部ノート
執筆: 田中 みずき   
公開日: 2011年 11月 08日

宮永亮 《arc》
2011, Multi-channel Video Installation
Copyright© Akira MIYANAGA
画像提供:gallery αM

   全く違う体験をしているのに、かつて観た風景を思いだしてしまうことは誰しもあるだろう。デジャヴもそうだが、知らないうちに、数え切れない程の風景は記憶の中にストックされ、しっかり言葉にできないのに同じ要素を選別している。  宮永の本展覧会では、本来は全く別の場所で撮影された海に浮かぶ船や、海で遊ぶ人々、町の風景、田んぼ、逆光の中で降り注ぐ雪を写した映像などが、興味深い仕掛けによって展示されている。入ってすぐ、床の上に広がる映像を越えて奥に進むと、両脇の展覧会場の壁や仮設住宅のような建造物、スクリーン等が目に入る。それぞれの映像が別個に壁やスクリーンに上映されているが、中央に造られた建造物の壁には、海や、昼と夜の光、建物や田んぼといった道の横に連なるものなど、お互いに別の場所を写した映像でありながら共通する要素を持った複数の映像が一つの画面に重ねられているのだ。全く違うようでどこか重なっていく映像が面白い。また、本作の中には、作者が映像を撮影した「過去」の時間と、その映像を観る鑑賞者が展覧会場をぐるりと周る「現在」の時間という二つの時間軸がある。展覧会場の中心で観られるものが、幾つもの映像の重なりであるという配置によって、時間軸が複雑に重なり合い、「映像を観る」という体験そのものを意識させられる点も興味深い。
   時間という要素が必ず含まれる映像作品の性質を生かした本展覧会には、現場で体感して鑑賞する楽しさが凝縮されている。時間をかけて鑑賞していただきたい。

最終更新 2011年 11月 08日
 

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