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掌9
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 3月 24日

copyright(c) Roentgenwerke AG

東京日本橋に、古美術界ではその名の知られた名店、瀬津雅陶堂がある。その創始者、故瀬津巌氏が芸術新潮誌上で長きに亘り連載され、後に美しい本となったエッセイ集「掌の美」(1996、新潮社、絶版)がこの展覧会「掌TANAGOKORO」の発送の発端である。元来日本人は美術作品を手の上で玩ぶ習慣がある。これは世界でも非常に稀なケースだと思われる。いまだ現代美術よりもはるかに強大なマーケットを持つ古美術、特に茶道美術の世界においては作品を素手で撫で回すといった行為は全く当然のこと。これは美術の成り立ち方が原因であろう。即ちイコンとしての美術をその原点とする西欧文化と、道具の装飾をそのはじまりとする日本文化という根本の決定的な相違である。また、そういった手の上に乗るような小さい作品を日本人は尊んで来た。一連の茶道具、また根付といった物は、正しくその表象であると言えよう。広い目で見れば盆栽や俳句といった「縮みの美学」とでもいえる日本人の美に対する感性もまた、特性でもある指先の器用さとあいまって、極東独特のものであると考える事ができるだろう。こうした意識から、優れて美しい小作品を現代の作家の手で創り出す事が出来たら、それは素晴らしい展覧会となるであろう事を予感し、コンセプト制限をせずサイズのみの限定を行い、そこに作家の精神とコンセプトを凝縮しようとする試み「掌(たなごころ)」展は、1997年3月、青山レントゲンクンストラウムに於いて、小谷元彦、笠原出、佐藤勲、篠田太郎、須田悦弘、中村哲也、中山ダイスケ、渡邊英弘の8人をフィーチャーし、開催された。その後、2002年10月までの5年間に同タイトルで、時にはアートフェアを含む他の会場で計7回の「掌(たなごころ)」展が開催され、小川信治、村上隆、ヤノベケンジ、山口晃といった、今や日本を代表するアーティスト達も、その展覧会に名を連ねた。同年の暮れから翌年早々にかけ、この「掌(たなごころ)」のコンセプトを拡大した展覧会「108」がニューヨークのイセファウンデーションで開催された。あえて床面ギリギリに展示された10.8x10.8cmのアクリルケースの中に展示された小さくも美しい作品群は、ニューヨークタイムズにもレヴューが掲載された事から話題ともなり、クロージングパーティには500人を超える来場者を集めた。それ以降、5年以上封印されていたこのコンセプトを今一度解き放つ。その間に、余りに肥大化した作品と、余りに肥大化した美術界に対する、優しい警告として。

出展作家
青木克世、荒川眞一郎、あるがせいじ、伊藤一洋、石川結介、岩田俊彦、内海聖史、大平龍一、荻野僚介、忽那光一郎、桑島秀樹、佐藤好彦、双唾冷々、高田安規子・政子、長塚秀人、長谷川ちか子、藤芳あい、渕沢照晃、丸橋伴晃、水野シゲユキ、山本修路、山本基

※全文提供: レントゲンヴェルケ

最終更新 2009年 3月 06日
 

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