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森村泰昌 新作展:絵写真+The KIMONO
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 8月 22日

森村泰昌 北野恒富・考/壱(恒富風桃山調アールデコ柄)| 2011年 和紙にピエゾグラフ | 75×56㎝(ラージサイズ 100×75㎝)| 画像提供:高島屋本社美術部 | Copyright© morimura yasumasa

髙島屋創業180周年記念展。

1831(天保2)年に京都烏丸で誕生した髙島屋は、2011(平成23)年の本年、創業180周年を迎えます。呉服商から出発した髙島屋は、着物、美術染織品の製作・販売を通して多くの美術家と親交を深め、その過程で創設された美術部は百年を超える歴史を持ちます。

髙島屋美術部では、進取の気風を持つこの企業の良き伝統を守り、また次の世代へと文化を伝え更に飛躍していくことを願い、そのテーマを実現していただけるアーティストとして、古今東西の名画、女優、20世紀の歴史上の人物などに扮したユニークなセルフポートレイト作品で、社会や人間の深層心理に鋭く迫り、国際的に評価の高い現代美術家・森村泰昌氏に、創業180周年記念作品の制作を依頼いたしました。

作品の題材は、1929(昭和4)年に製作された、北野恒富筆『婦人図』を原画とする髙島屋のポスターです。総絞りの友禅を片肌脱いだ女性像と与謝野晶子の歌「香くはしき近代の詩の面影を 装ひとせん明眸のため」が添えられた、上品なエロスを湛えたこのポスターは、駅に掲示するやたちどころになくなってしまったほどの人気だったということです。

この『婦人図』が、6種の衣装を変え、森村泰昌氏のセルフポートレイト作品として現代に蘇ります。森村氏と、髙島屋美術部、呉服部、そして髙島屋史料館との歴史的コラボレーションによる新・旧の“明眸”をぜひともご高覧ください。
※明眸(めいぼう)=澄み切って美しいひとみ。はっきりした目もと。美人の形容にいう。【「広辞苑」より】

北野恒富(きたの つねとみ)
1880(明治13)年、金沢に生まれる。1947(昭和22)年没。明治25年より版下技術と南画を学ぶ。30年に大阪に出て、稲野年恒に師事。大正元年、野田九浦らと大正美術会を結成。大正3年、日本美術院再興に参加。4年に大阪美術会、7年に大阪茶話会を結成、その後白耀社を主宰。美人画を得意とし、大阪画壇の重鎮として強い影響を持った。ポスター等のグラフィックデザインでも活躍。

森村泰昌
美術家。1951年大阪生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業。絵画、童話、版画、モノクロ写真などによる試行錯誤を経て、1985年、ゴッホの自画像にみずからが扮して撮影するという、セルフポートレイト手法による大型カラー写真を発表。現在に至るまで、一貫してセルフポートレイト表現を追求してきた。

1988年、ベネチアビエンナーレ/アペルト部門に選ばれ、一躍注目される。以降、海外での個展、国際展にも多数出品するようになる。古今東西の有名絵画の中の登場人物になる「美術史シリーズ」、映画女優に扮する「女優シリーズ」などを手がけるほか、映画や芝居、パフォーマンスにも参加する。また宝塚歌劇のポスターのディレクションやイッセイミヤケのプリーツプリーズ/アーティストシリーズの第一弾をてがけるなど、作品制作のノウハウを活かして、多方面に活躍中。著作も多数ある。

受賞歴
東川賞(2002年)
織部賞(2003年)
京都府文化賞功労賞(2006年)
芸術選奨文部科学大臣賞(2007年)
毎日芸術賞 写真協会賞 京都美術文化賞(2010年)

全文提供: 高島屋本社美術部


会期・会場
東京展: 2011年7月6日(水)-2011年7月25日(月)/髙島屋東京店6階美術画廊X
新宿展: 2011年8月10日(水)-2011年8月22日(月)/髙島屋新宿店10階美術画廊
大阪展: 2011年12月28日(水)-2012年1月10日(火)/髙島屋大阪店6階ギャラリーNEXT

最終更新 2011年 7月 06日
 

編集部ノート    執筆:結城 なつみ


森村泰昌 北野恒富・考/壱
(恒富風桃山調アールデコ柄)
2011年 和紙にピエゾグラフ
75×56㎝(ラージサイズ 100×75㎝)
画像提供:高島屋本社美術部
Copyright© morimura yasumasa

絵画や女優、歴史上の人物などに扮したセルフポートレート作品で知られる森村泰昌。今回、高島屋美術部の依頼で創業180周年記念の作品を制作し、現在高島屋新宿店にて展示されている。この制作で作家が題材に選んだのは、日本画だ。大正期の大阪画壇で活躍した美人画家、北野恒富の《婦人図》(1929)である。その理由として、森村自身が大阪生まれであるという「縁」と、「日本画なのに写真みたいな描き方」が挙げられている。《婦人図》は当時、高島屋の着物展示会のポスターとなり、大変な人気を博したという。

ギャラリーの入り口正面に北野恒富の《婦人図》があり、その左手奥の空間に6つのバリエーションのセルフポートレートが展示されている。それぞれ、高島屋の展示会で発表された名作着物や、《婦人図》を始めとした、高島屋と所縁ある絵画に描かれた着物、森村自身がデザインした着物が再現され、作家はそれらを身にまとい、《婦人図》のポーズを決めている。「高島屋」「着物」「大阪」という、シンプルで分かりやすい作品のコンセプトは、鑑賞者をスッキリした気分にさせてくれる。それでいて実際にセルフポートレートを眼前にすると、着物の再現率の高さと森村自身の男性的な体型のギャップに、おかしな違和感を覚える。このおかしさは、森村作品ではお馴染みのものだ。

先述した作家の言葉、「日本画なのに写真みたいな描き方」は、日本近代美人画の特徴のひとつである。日本の近代化によって、西洋画の影響が日本画にも及んでいたため、近世に比べると格段に写実的なものが描かれた。作品制作における森村の美術へのまなざしには、日本美術史の一端がうかがえ、作品の魅力となっている。


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