| EN |

坂田あづみ・塩川彩生:あめつちのはじめ
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2011年 6月 25日

画像提供:バンビナートギャラリー

本展では、布、糸、刺繍などを用いて「いきているもの」を制作する坂田あづみと、木版表現を用いたモノタイプ作品でパラレルワールドの人や物を制作する塩川彩生の作品を紹介。これまでの万象の経緯に縛られることなく、自由な形象を纏って生み出された作品は、原初に立ち戻って新たに生まれ来た生き物のようでもあり、また身近にありながら微かなずれで気づけずにいた物の気のようでもあります。

あめつちはじめてひらけしとき(天地初めて発けし時)、と始まる古事記では、世界の始まりは混沌としており、天と地が分離していなかった様子が語られています。その後、天地を分け、国を固め、万物を生み出す神々がそれぞれ生まれました。世界の始まりを語ったこの古事記の冒頭に、未曾有の大震災を経験した今、混沌から新たに生まれる価値や表現について思い至らずにはいられません。

坂田あづみは、本人が感じたきもちを例えば「さなぎ」や「ミイラ」、「人形」、人ではない何か「いきているもの」などに置き換え、それらを布に描いたり、刺繍をほどこしたり、断片パーツをコラージュする事で「見える物の向こう」すなわち「inner eye(内なる目)」でみた風景を表現し、そこから人にとっての「幸せの条件」を探し求めています。布やレース、糸のねじれやからみのフォームやテクスチャは坂田の根底に眠っている様々な感情を呼び覚まします。布をたらしたときに出来るヒダ、ドレープはゆるやかな時間の経過と繰り返される感情を表現しています。繰り返される時間や感情はいつも同じではなく、必ず形を変えてポジティブな未来へ向かっています。そして透明アクリルにそれらの素材や作品パーツをコラージュして挟み込む事によって、過去私たちが永遠の命に憧れて制作し続けてきたミイラや標本物のような記憶の一片に変化する。その記憶は私にとって過去の悲しく空しい残骸でなく、未来への新たな出発への脱皮のような物なのです。

塩川彩生は、目に見えないものや言葉にできない事について、小さくて自分に寄り添った物や体験、想像したものからイメージを得て制作しています。木版表現を用いていますが、作品はモノタイプであり、版木を用いて描くといった手法をとっています。「木」そのものの生命力や息吹を感じながら、版木を用いて和紙に描く、あるいは版木から生まれた形象を、象られたままにコラージュや手彩色を施して作品を仕上げていきます。プリミティブな人物像であったり、動物や植物、デフォルメされた多様な「かお」など、作品の形象はさまざまですが、ふと目をそらすと消えてしまいそうな儚く淡い色合いは世の哀れを表しているようにも感じられます。また同時にコミカルな要素も見受けられ、作品全体を通して感じられる温もりや柔らかなイメージは、生命賛歌のようでもあり、やさしく穏やかな気持ちを呼び起されます。昨年末よりモンブラン銀座本店内で開催された「モンブラン ヤング アーティスト パトロネージ イン ジャパン」プロジェクト2010においても塩川の作品が人気投票の1位に選ばれるなど、多方面で共感を得ています。

全文提供: バンビナートギャラリー


会期: 2011年6月25日(土)-2011年7月10日(日)
会場: バンビナートギャラリー

最終更新 2011年 6月 25日
 

関連情報


| EN |