編集部ノート
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執筆: 田中 みずき
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公開日: 2011年 6月 17日 |
宗教問題や領土問題を抱え、緊張状態にある北アイルランド・ベルファストを拠点として作品制作を行う増山による展覧会。展示作は、映像作品2本と、街の模型、そして映像作品関連の展示品と、街の画像である。日本では考え難い政治的緊張が、ニヒルな笑いを込めた作品を通じて鑑賞者に迫ってくる。 映像作品「Crossing the Border」は、4分。厳戒態勢のスキポール空港(アムステルダム)で作者が小さな挑戦を試みる。現場の政治的緊張と相まって、本来であれば笑ってしまう試みでありながら、笑えないような後味で終わる。やっていること自体は本当に小さな行為なのだが、ずっと観る人の心の隅に残るだろう。 某ハリウッド映画をもじったタイトルの映像作品「The Heart Rocker」は、街で問題になっている犬の糞の報知への対処を題材としている。家の庭に落ちている見知らぬ犬の糞を、かつては道の外に捨てていたが、この行為を領土や侵入という概念に照らして現地の政治的状況と鑑みた際に糞が「地雷」のようだと思い始めた作者は、爆弾処理班の防護服を着て、犬の糞を処理するようになる。やはり、やっていることはアホであるが、笑った後に考えてしまう。 日本の若者が海外に行かなくなったと嘆かれる現代において、外に出た者のみが知り得る体験が生かされた作品が並ぶ展覧会。目撃しておくべきだろう。
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最終更新 2011年 6月 15日 |