| EN |

包む-日本の伝統パッケージ
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2011年 4月 22日

釣瓶鮓 [奈良県]
画像提供:目黒区美術館

本展は、目黒区美術館が1988年に、岡秀行さんより譲り受けた「日本の伝統パッケージ <包む>コレクション」を紹介するものです。

岡秀行さん(1905-1995)は、戦前よりグラフィック・デザイナーとして活躍する一方で、食料品や菓子折などの容器の美しさに魅了され、収集を始めました。それらは、わが国の風土に育まれた自然素材を生かした包装・容器の類いで、昔ながらの手わざによる素朴な美を持つもの―例えば、米俵やわらの苞(つと)―や工芸的ともいえる職人技が光る造形美を持つもの―例えば、鮨桶や酒瓶など―でした。日本人にとっては、生活の中に身近にあるものだったので、あらためて見直すことのなかったもの―デザイン―と言ってもいいかもしれません。

しかし、岡さんは、そこに日本人ならではの「美意識」と「心」を見いだしました。そして、約半世紀前の当時でさえ、その作り手たちの手わざが失われつつあることに危惧を抱き、それらを「日本の伝統パッケージ」と名付けて写真集や展覧会として世に問いました。1960年代から70年代にかけてのことです。その後、岡さんのコレクションは、国際交流基金によって世界を巡回する展覧会へと発展し、「TSUTSU MU」(包む)という言葉とともに各地で大きな反響を巻き起こしました。

戦後、日本は経済が急速に成長していく中で、デザイン界も大きく変動していきました。そのような時期に、岡さんによって示された「日本の伝統パッケージ」は、大量生産や技術革新に安易に迎合するような意匠への警鐘の一つだったと言えるのかもしれません。

今日、あらためて岡さんのコレクションを見直してみると、当時とは違った意味合いも見えてくるようです。数十年前までは用いられていたパッケージが、今ではその材料の入手が困難だったり、それをつくる作り手たちの後継者がなく、完全に作られなくなったものもあるという事実もあります。岡さんのコレクションのほとんどが、木や竹、わら、和紙など自然の素材をもとにしているということもありますが、生活や文化の中で脈々と受け継がれていた手わざや美意識までもが失われてしまったのでしょうか―。

私たちは、いま一度立ち止まって、豊かだった日本の自然や日本人の心を見つめなおす時期なのかもしれません。本展が、そのきっかけの一つとなればと思います。

岡秀行氏(1905-1995)について
岡秀行氏は、戦前はいち早く、デザイナー、写真家、コピーライターを擁する事務所、今で言う総合デザイン事務所を立ち上げた先駆者として、戦後は日本宣伝美術会(1951 年)、東京商業美術家協会(1952年)、全国商業美術家連盟(1963年)など、デザインの職能団体づくりに尽力し、デザイン界に大きな貢献を果たしました。グラフィック・デザイナーという本業のかたわら、日本人が古くから生活の中で用いてきた米俵やわらの苞(つと)、日本の雅びな文化が息づく老舗・名店の菓子折や鮨桶など、自然の素材を生かした包装・容器に初めて美的な価値を見いだし、その収集と研究を始めました。そして、1965年に『日本の伝統パッケージ』(美術出版社)を、1972年には『包』(毎日新聞社)という二冊の写真集を出版し、「日本の美意識」や「日本人の心」というものを世に問いました。その後、岡氏のコレクションは「包・TSUTSUMU」展となり、世界各地を巡回する展覧会へと発展しました。

目黒区美術館と岡秀行氏の<包む>コレクション
岡秀行氏の「日本の伝統パッケージ」による展覧会は、1975年のニューヨークのジャパンソサエティ・ギャラリーでの展覧会を皮切りに、1980年代半ばにかけて世界各国の政府機関、美術館、文化団体から招かれ、国際交流基金によって数多くの会場で開催されて、高い評価を得ていきました。

その輝かしい海外での成果を踏まえて、岡氏やその関係者の方々が日本の美術館での展覧会と収蔵を模索されていた時期に、その趣旨に賛同した当館での展覧会が実現することとなりました。1988年に当館は、「5つの卵はいかにして包まれたか 日本の伝統パッケージ」展を開催し、その後、展覧会に出品されたパッケージを譲り受け、岡秀行氏旧蔵の<包む>コレクションと名付け、今日まで大切に保管してきました。

主催: 公益財団法人目黒区芸術文化振興財団

※全文提供: 目黒区美術館


会期: 2011年2月10日(土)-2011年5月22日(日)10:00 - 17:00(最終入場16:30)
会場: 目黒区美術館

最終更新 2011年 2月 10日
 

編集部ノート    執筆:石井 香絵


釣瓶鮓 [奈良県]
画像提供:目黒区美術館

「木」・「竹」・「笹」・「土」・「藁」・「紙」と素材別に展示された日本の伝統的な梱包品や容器の数々は、戦前から活動を続けたグラフィック・デザイナー岡秀行による収集品である。1964年に東京の白木屋で初めて「日本の伝統パッケージ展」として展示され、国外からも注目を集めた岡のコレクションは、後に「TSUTSUMU」(包む)をキーワードに世界各地で巡回展示された。

長期的な話題を呼んだこれら収集品は目黒区美術館の所蔵となり、現在「包む-日本の伝統パッケージ展」として再び展覧されている。漬物や味噌を入れる木の容れものや蔦の紐、竹かごに入った水羊羹や瓢箪の薬味入れなど一点一点が目を楽しませる。かつてこれらが日用品だった暮らしへの憧れを喚起させる品ばかりだ。菓子折など贈答品用の容器や包装は、中身をより良く見せるための心配りやもてなしからなる職人技を思わせる。一方で保存用の容器や藁細工など、生活のなかで洗練され、自然とその形になったものもあるのだろう。小銭を紙で包んだだけの「おひねり」や、笹の葉で二つ折りにしただけの「ささあめ」など、簡素な包装はかえって「包む」行為に内在する美意識の原型を浮き彫りにしている。

用途や技量の異なる伝統品にデザイナーとしての岡の視点を重ねることで、パッケージそのものの魅力や、その根底にある価値観に気付かされる。淘汰され消えてしまった手技から今も受け継がれるかたちまで、充分に観覧を楽しみたい。


関連情報


| EN |