| EN |

増井淑乃:グッバイヘイロー
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2011年 3月 05日

画像提供:小山登美夫ギャラリー 京都
Copyright © Yoshino Masui

【作品紹介】
増井淑乃は、細密な模様からなる神秘的な風景に動物が配された水彩画を制作しています。無数の点と曲線で描かれたその模様は作品一点一点で異なり、単に装飾的なのではありません。夢幻感をたたえ、繊細ながら時には不穏さや緊張感を感じさせるそれらは、反復、繰り返すことによって世界を把握しようとする作家の意図や、昔の記憶の断片、また彼女のいう「ありとあらゆる統一されない感情」など様々なものが投影されているといえます。

紙に水彩で下地を塗り、時間をおいてから何度も重ねて描かれる画面には、滲みによってできる偶然の効果と意図的で入念な描線によって独特のテクスチュアがつくりだされます。またそこに描かれている、猫や馬、鳥などの動物たちは、彼女が身近な存在として観察してきたものです。なかでも増井が「掛け値なしに美しく、それが描き続ける理由にもなる」といい、また描く対象としてだけではなく、着想自体に重要な存在になっているのが馬です。競馬場に通い見続けている馬について、彼女は以下のように話しています。

「3コーナーを過ぎたあたりから、いつも馬群を目で追っている。一瞬、大欅に遮られたあと、地平から、色のカタマリが弾丸みたいに迫ってくる。その先の地平では勝者と敗者の選別が行われる。地平から地平を何度も通り過ぎ、やがて静かに去っていく。願わくは、その先に、またもう一つの地平があらんことを。今度は穏やかで、速度の遅い・・・。」

これらの馬や他の動物たちは、増井の作品のなかでは背景と有機的に統一し、まるで神話のなかの動物のような象徴的な存在として描かれています。

【展覧会について】
展覧会のタイトル、「グッバイヘイロー(Goodbye Halo)」はアメリカで活躍した牝の競走馬の名前です。引退後、繁殖牝馬として日本に輸入されました。現在は繁殖牝馬としても引退し、北海道の牧場で余生を送っています。彼女の時代は終わりましたが、サラブレッドの血の流れの一部として続いていきます。

同名の新作は、下地に定着しにくく、あらゆる水分に弱い植物顔料が用いられ、そのデリケートな性質を利用して制作されました。また"Halo"という言葉には光輪(神などの理想化された存在がもつ光)という意味もあります。その他の新作と未発表作7?8点を展示します。是非ご高覧ください。

【作家プロフィール】
増井淑乃は1976年静岡県焼津市生まれ。1999年、多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。現在東京を拠点に制作活動を行っています。2004年のGEISAI#6にて、小山登美夫がスカウトしました。

世界中のキュレーター、批評家などよって推薦された1975年以降生まれの作家を紹介した書籍、"Younger Than Jesus: the Artist Directory"(Phaidon/The New Museum出版、2009年)に掲載されています。小山登美夫ギャラリーでは2006年、2008年の個展に続き、3年ぶり3度目の個展となります。

※全文提供: 小山登美夫ギャラリー 京都


会期: 2011年3月25日(金)-2011年5月7日(土)
オープニングレセプション: 2011年3月25日(金)18:00 - 20:00
アーティストトーク:2011年3月25日(金)17:30 -
会場: 小山登美夫ギャラリー 京都

最終更新 2011年 3月 25日
 

編集部ノート    執筆:平田 剛志


画像提供:小山登美夫ギャラリー 京都|Copyright © Yoshino Masui

やわらかな色彩を背景に馬や猫などの動物が小さな点景として描かれる増井淑乃の京都初個展。

水彩のやわらかい色彩が新緑の木々のような明るさと透明感を湛えて魅力的だが、近づいて見ると緻密な線描の集積によって描かれていることがわかる。その細かな線描は草間彌生の作品を思わせもするが、増井の絵画にオブセッショナルな要素はあまり感じられない。むしろ集積するほどに、解放されていくような絵画空間の広がりがある。

タイトルの「グッバイヘイロー(Goodbye Halo)」とは、アメリカで活躍した牝の競走馬の名前である。引退後、繁殖牝馬として日本に輸入されたが、現在は繁殖牝馬としても引退し、北海道の牧場で余生を送っているという。増井の描く動物たちもまたユートピア的な世界で余生を送っているのかもしれない。増井の絵画はそんな想像へと誘う。


| EN |