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齋藤祐平インタビュー(3/3ページ)
特集
執筆: 石井 香絵   
公開日: 2010年 12月 24日

作品の見せ方

―齋藤さんのお話は作品そのものというよりも、作品の見せ方やそれをとりまく環境に関する話題が中心になっているように思います。何か理由があるのでしょうか。

齋藤:僕はどうしても、作品が展示された後にイメージがどういう流通をして観る人に届くのか、というところまでいじりたいという思いがあるんです。その過程をもっと面白がりたい。作った後の面倒もみたいという気持ちです。たとえば外でやるのとコマーシャルギャラリーでやるのとでは場所の属性も違うから、作品の伝わり方も違うと思うし。そういう単純なことを一つずつ実験していきたいというのはあります。ただ単純にアートとしての属性を持つ場所で、そのアートとして認められるために作品を発表するというのは、自分にとっては出来事としてあまり面白いとは思えなくて。ストレートに作品を出すのも一種の方法で、それを他人がやるのは良いけど僕はそこにもう一個アクションを加えたいんです。せっかく展示をさせてもらっているので、ただ作品を出すだけでは出来事としてもったいないというか。絵ってこんな見せ方や使い方もあるんだと、そういうところまで含めて自分の表現にしていきたいです。

はじめに勉強は好きじゃなかったけど地理は好きだった話をしましたが、自分の知らないところにある知らない人の生活を想像するのが昔から好きなんです。旅行ももちろん好きですけど、紀行文を読んだりして思いを馳せるのが楽しいんです。自分と全然違う価値観で日常を生きてる人を思うことって、自分の絵がどう見られるか考える素養になっていると思います。たとえば僕は学校行って弁当食べて部活もせずに帰ってだらだら音楽を聴いてるけど、毎日石を運んでる子どももいるんだろうなあとか。そういうのって、僕はこういう風に絵を見てるけどもう少し違う見方もあるんだろうなと思考することに役立っていると思います。

―そこで質問なんですけど、普通は作品の制作自体に一番力を注ぐものですよね?

齋藤:そりゃそうですよ(笑)。うーん…絵は好きなんだけど、なんかどこか醒めてるところはあるかもしれない。描いてていいじゃんってなったらぽんと投げ出して、はい次、はい次って、一人工場みたいになってます。大阪の滞在制作で淺井さんと同じ場所で並んで作業していた時に、僕は3つか4つの絵を同時に描いていたんですけど。こっちに絵の具を塗ったらこっちで、その間にこっちの絵の具が乾くからというふうにぐるぐる回りながら描いて、工程表にレ点でチェックを入れていくような感じで作業を進めていきました。その時に「齋藤君は全然手が止まらなくてすごい」と言われたことがあります。

―思うように描けなくて悩んだりすることも無いんですか?

齋藤:そういうことは無いですねー…。先立つ思いが無いんですよ。途中まで来て何かが足りないとか、ごてごてし過ぎたとかいうことはあるけど。下書きも無いし。

―たとえば学生だと、作品を講評されて泣きだす人もいるそうです。

齋藤:え!何で!?そんなにきついこと言われるんですか?自分を否定されたような気分になるのかな。僕は全然そういうのは無いです。どの作品も自分の1パーセントであり100パーセントだから。どれも一生懸命描いてるけど、どうせ一部分でしかないから、良く言われなかったとしても別に…。明らかにけん制口調で来られたらそりゃ怒るけど。「分からない」って言われても多少重い気分にはなるだろうけど。作品については重々しく考えてないですね。

それに、どんな人も一人の人間だから、人をメディアを通したアイコンとして見ることはしないようにしています。「この人にこう言われたというのは、どういうことだろう」とか、あまり深く考えないですね。まあでも、その人が褒めてるものとかで自分の絵を気に入ってもらえるかどうかは何となく想像つく気もするから、ぴんとこないと言われてもそんなもんかと思ったりはします。人の反応は気にしてなくはないけど、気にし過ぎないようにしていて。だからいっぱい描けるんだろうとは思います。



『Circle X』

fig. 12 『Circle X』展示風景。左側が淺井裕介、
中央がNANOOK、右側が及川さやかの出品作品。 2010年

fig. 13 ≪横風注意≫ 2010年
ポスターカラー、ペンキ、インク他|17.5×25.5cm

―それでは最後に今後の活動もふまえつつ、この夏の活動について聞かせていただけますか?

齋藤:まず『Circle X』についてですが、この展示は単純に、普通のドローイング展がやりたいなあと思ったことがきっかけです。それでメンバーを何となく割り出したんですけど。

―あの展覧会は初めて見る人で良い絵が多くて驚きました。全体のバランスも良かったです[fig.12、13]。

評判は良かったです。メンバーも淺井さん以外はいわゆる美術とは違うフィールドで活動している人たちばかりでしたね。あえてそうしたわけじゃなくて、ドローイングに魅力のある人を選んだら自然とこうなっただけですけど。僕と淺井さんと及川さやか、郡司侑祐(ぐんじ ゆうすけ)、stomachache(スタマックエイク).、NANOOK(ナヌーク)、二艘木洋行(にそうぎ ひろゆき)の七人(組)がメンバーです。

及川さやかちゃんと郡司はOPAOPAっていう、2008年に僕とアサちゃんと4人で結成したグループのメンバーです。およちゃん(及川の愛称)はほとんど作品を発表したことが無かったけど、僕はたまに絵を見せてもらっていて、良い絵を描くことは知っていたので今回誘いました。およちゃんとは陽光さんを通じて知り合って。僕が最初に見た絵は彼女が映画撮影のスタッフをしていた時に仕事で描いた絵なんですけど、技術的に普通に上手い絵でした。絵の勉強はほとんどしたことが無いらしいんだけど。OPAOPAを結成してから改めて絵を目にする機会が増えて、「およちゃんの絵すごいな」と思ったんです。

―及川さんは光の残像のようなものを描いていると聞きましたが…。

齋藤:そうみたいですね。紙を見ていると勝手に線が浮き出てくるからそれをなぞってるだけだって。そんなサイキックな描き方をしているとは思ってなかったですが(笑)。 郡司侑祐とは彼が出していた自作の画集を見たことがきっかけで知り合っています。2005年くらいにその画集を見て、こいつすごいと思って連絡しました。細かい線のドローイングが掲載されていて、シールとかコラージュしてあって、とにかく密度がすごかったです。シールはじかに貼ってあったりする一点もので、8部くらいしか作ってなかったらしいです。

二艘木洋行ともそんな感じで、数年前に知り合っています。彼の『UNKNOWN POP』という作品集を見て連絡したんですが、その後遊びましょうという風には全然ならなくて。お互いの展示を見に行く間柄で半年に一回くらい会っていました。彼はお絵かき掲示板というパソコンの描画ツールで絵を描いていることもあって、他の出品者とは全然違う作風だったので声をかけました。今回は手描きの作品も出品してくれましたが、大きいサイズの作品を出してくれたのは嬉しかったですね。

NANOOKは大学の後輩ですが、卒業後に共通の友人を通して知り合いました。彼は以前から「A Delicate Relation You & Me」というグループのメンバーとして本・バッジ・Tシャツなどを作っていたんですが、絵は今と違ってもっとデザインっぽい感じだった気がします。その後どういうタイミングか分からないけど、だんだん彼の絵が気になり始めて。あの作風は何でしょうね。グラインドコアとかデスメタルとか、彼が聴いている音楽のヴィジュアルから影響を受けてるんだろうけど、絵自体はすごくポップですよね。

―NANOOKさんの絵は人気でしたね。

齋藤:そうですね。NANOOKは『Circle X』がきっかけでmograg garageでの個展※8 も決まったので、この展示をやって本当に良かったと思いました。

stomachache.は姉妹でやってるコンビなんだけど、元々はNANOOKとかその周りの知り合いです。自分たちが影響を受けたカルチャーの要素がモチーフとして絵に直接表れていて、僕とまた全然違うタイプだと思います。そういう絵を描く人は沢山いると思うけど、stomachache.は線が単純にすごくキレイだし、展示の構成センスもずば抜けていると思います。彼女(達)が入ったことで、展覧会の雰囲気が大分変わりました。全体が引き締まった感じがしています。

―展示タイトルの由来は何でしょうか。

齋藤:定義を持たない、匿名のサークルということです。グループ展を主催するにあたって、「この人とこの人を選ぶことで何が言いたい」とか、そういうことはやりたくなかったので。他の人がそれをやるのは良いんですけど、僕がイデオロギーを背負うことはしたくないし、他の出品者もそれをされてもって感じだと思うから。個々の作家は間違いない人たちだと思っているので、展示は自信を持ってやれました。

あと今回のメンバーは普通に集まっても楽しく話せる人たちばかりです。その辺のことは割と意識しました。現場のぎすぎすしたムードが嫌いなんです。グループ展に参加すると、たまに「誰が一番か」みたいなことを過剰に気にする空気になっていることがあって、あの状況がすごく嫌で。敵対心むき出しにして、自意識でいっぱいになっている。ガチ対決みたいな展覧会って本当に嫌いです。そんな中で勝ってもうれしくないし。落ち着いて自分のことをしていれば良いのに。そういうのって展覧会の雰囲気まで駄目にすると思うので、作品だけでなく現場の雰囲気も良くしたいと初めから思っていました。

―『Circle X』と同じ時期に20202で齋藤さん企画の『第1回平間貴大初レトロスペクティブ大回顧展』が開催されていますが、この展示もとても良かったですね。

齋藤:先ほども話しましたが、平間は音楽に限らず、どういう器を与えても彼なりの表現ができるので前から面白いと思っていて、作品を一通り見られる場所を作りたいと考えてたんです。二年前の僕の個展『23時59分』で一回作品を総入れ替えしたんだけど、搬出と搬入の合間に平間の個展を数日間だけやってもらったりもしました。僕が20202で個展をしていた時藤本さんに平間のことを話したら、「平間の展示をやっても面白いんじゃないか」と言って下さったので今回の展示が決まりました。

―『第1回平間貴大初レトロスペクティブ大回顧展』というタイトルは誰が決めたんですか?

齋藤:それは平間が決めました。むしろ「このタイトルを許可してくれてありがとう」と言われました(笑)。

―この先はどのような活動を考えていますか?

齋藤:人からの誘いを待っているだけではなく、自分の企画をやることをきちんとしていきたいという思いはあります。今回の平間の個展を企画したことで、自分が出品しなくても楽しいということが分かったから、他作家の展覧会もまたやってみたいですね。企画したい展覧会は沢山あります。

自分のことに関しては、福士千裕さんと一緒にフリーペーパーを作っているので、それは続けていきたいですね。あと最近はすごく大きい絵が描きたいという欲求があります。テーマも何も無しに普通に描きたい。それでもただ描くだけだと前みたいにエネルギーをぶつけるだけになっちゃうから、作ってからの見せ方をどうするかという問題はこれからも考え続けていきたいと思っています。


齋藤の作品作りは、生活そのものなのだと感じた。描くこと作ることがあまりにも日常的な行為のため、表現する理由が特に要らないのだろう。彼にとっては美術や芸術という枠組みすら見方のひとつであり、作品を通した意義や主張といったものに特別な興味は抱いていないようだった。作品に対してある種の距離を保つことで、その見せ方まで充分に意識をめぐらすことができるようである。彼の多様な活動形態は、このような性質に由来している。

齋藤の表現を続けていこうとする姿勢は自作のみならず、他作家との共同制作を生み、本年においてはキュレーション活動まで実現している。来年はどのような継続と発展を見せるのだろうか。今後の活動に期待したい。


齋藤祐平の経歴についてはhttp://blog.goo.ne.jp/hintandgesture/e/8a8dad94d0f1adad271efc03803a57a9を参照。
今後の活動としては、2011年1月11日から2月2日まで神田神保町のギャラリー・棚ガレリ(http://rad-commons.main.jp/tana/)にて個展「羅布泊書工書庫」が開催される。
なお2011年1月中に齋藤の作品が閲覧できるサイト「羅布泊」が開設される予定 (URLは「Hint And Gesture」(http://blog.goo.ne.jp/hintandgesture/)にて公開予定)。


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脚註
※8
NANOOKの個展『NATIONAL GEROGRAPHIC』は2010年12月9日から12月26日まで国分寺のアートスペースmograg garageで開催。

最終更新 2015年 10月 13日
 

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