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浅田政志:「浅田家」~あなたもシャッター押してみて
レビュー
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2009年 4月 30日

Copyright © Masashi ASADA
画像提供:株式会社赤々舎

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    最後に家族の記念写真を撮ったのはいつだろう。おそらく大部分の人は家族全員で写る記念写真をいままでにさまざまな機会に撮ってきたことだろう。写真が発明されて160年以上、有名無名に限らず、これまで全世界で何回となく撮られてきた家族の記念写真。そこには、家族それぞれが持つパーソナリティーが写りこみ、個々の「家族」が印画紙上に刻印されてきた。

    第34回木村伊兵衛写真賞を受賞した浅田政志の『浅田家』は、文字通り「浅田家」の記念写真である。しかし、ただの家族の記念写真が賞を取ってしまったわけではない。ここでは、家族はある設定のもと、それぞれが役割を演じているのだ。消防隊員、ヤクザ、泥棒、高校生、ラーメン屋、ロックバンドなど多種多様な職業、状況に浅田家の両親、兄弟がそれぞれの立場に扮しているのである。

    家族そろっての記念写真というのは、写真が発明された頃からありながら、現代の芸術写真において「記念」は避けられてきたとは言えないだろうか。「記念」というハレの場より、ケである「日常」の記録へとカメラはまなざしを向けてきた。この『浅田家』が受賞した賞に冠されている木村伊兵衛その人もまた、「日常」の写真を撮り続けた人であった。

    「家族」という点では1982年以来続いているブルース・オズボーン(Bruce Osborn)のライフワーク『親子』(1998)、『家族』(2001)がある。この作品は有名、無名を問わず様々な家族をスタジオで撮影するものである。また、過去の木村伊兵衛写真賞では自身や家族の日常を撮影した長島有里枝の『家族』(1998)、パフォーマティヴなセルフポートレイトで知られる澤田知子がいる。澤田の写真は家族ではないが、様々な職業や年齢の女性を1人で演じ分ける多様な「私」が記録されていたことが記憶に新しい。

    しかし、「浅田家」の記念写真は、それら日常的な家族風景とも、コンセプトを想定した写真とも近いようで違う。ここでは演じられているとすぐにわかるシチュエーションコメディとしての要素を持ちながら、その写真からは、実に生き生きとしたドキュメントとしての「浅田家」がいるからだ。つまり、「浅田家」は様々なシチュエーションを楽しんでいる。これは本当の意味で「記念写真」なのだ。とてもパーソナルな記念写真でありながら、普遍性をもった「家族」写真へと昇華しているのである。しかし、これを成立させるためにセルフタイマー撮影による、フレームやカメラ位置などを細かに配慮しているあたりにただの「記念写真」ではない用意周到な技術と準備が込められており、それが余計にコント(conte)としての日常を作り出すことに成功しているのだ。

    家族がバラバラに住んでおり、全員一緒に集まる機会もほとんどない現代。「そんな待っていてもなかなか来ない記念日を、写真を通じてつくりあげていく」と、浅田は述べている。時に現代の写真は、「家族」を撮影するにも、パフォーマティヴな要素がないと家族を撮れないのかもしれない。現代写真や現代美術の写真作品にパフォーマティヴな設定やコンセプトを導入した写真作品が多いのも、「写真」にフィクションがないと、「記念日」なきこの時代の人々を写すことは、殺伐とした空気が流れる現実でしかないからだろうか。コントとしての日常を生きること。『浅田家』は「記念日」に写真を撮るという写真の祝祭性を蘇らせた。


参照展覧会

展覧会名: 浅田政志:「浅田家」~あなたもシャッター押してみて
会期: 2009年4月3日~2009年4月27日
会場: パルコファクトリー(渋谷パルコPART1・6F)

最終更新 2010年 9月 22日
 

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