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THE BARGAIN ~俺たちは絵を売りたいんだ~
レビュー
執筆: 石井 香絵   
公開日: 2010年 10月 22日

fig. 1 撮影:石井 香絵

fig. 2 撮影:石井 香絵

fig. 3 撮影:石井 香絵

     会場入って右側の壁はアクリル画の小品で埋め尽くされていて、そのほとんどが共作である。大橋、小田島、箕浦の描くキャラクターはそれぞれ個性的であるけれども妙に調和がとれていて、互いにキャンバスを飛び出して自由に行き来しているかのような楽しげな印象を与える。どうしたらこんなにのびのびと気持ちのよい絵が描けるのだろうと思いを馳せるまでもなく、向かい側の壁には実際に大型のキャンバスを前に談笑し、音楽を聴きながらのびのびと絵筆を走らせる本人たちがいる。

     全日本ポスト・サブカルチャー連合(全ポ連)とは、2010年8月19日に開催された渋谷HMV閉店イベントに臨時出演する際立ち上げられたグループである。この時はグラフィック・デザイナーの大原大次郎もメンバーの一人であったが、本展には参加しておらず、全ポ連は今後もメンバーを流動させつつ活動を続ける予定だという。デザイナーや漫画家、イラストレーターらによる全ポ連の結成は、メンバーである小田島等の監修による『1980年代のポップ・イラストレーション』が2009年に刊行され、2010年1月号の『美術手帖』に日本イラストレーション史の特集が組まれ、同年6月に小田島の作品集『ANONYMOUS POP 小田島等作品集』が刊行されるなどの昨今の時流に同調する動きである。※1 これら商業美術に類する作家たちの自律的な活動は、従来ほとんど顧みられることのなかったグラフィック・デザインやイラストレーション史の体系的な見直しが計られる時期にきていることを示唆しているように思われる。※2 こうした視点で本展をみることも可能だろう。

     展覧会場には偶然、6月に同じ場所で個展を行った二艘木洋行氏※3も来ていた。二艘木氏はライブペインティング中の全ポ連や他の観客(私)らとの会話に時折参加しつつも静かに展示作品を見定め、やがて展示品のなかでは決して安い方ではないが人目につかない、けれども実は作者たちにとって特別な思い入れがあったという一枚を選び出して購入を希望し、予期せぬ行動と審美眼で一同を騒然とさせるという出来事があった。

     本展のタイトル「THE BARGAIN」のとおり、会場にはこれまで描きためられてきた絵画が大放出されている。さらには本人たちも会場で絵を制作し続け、会話にも気さくに応じてくれるといった盛りだくさんの内容であるから、会場の全体的な雰囲気に浸ることはできても作品一点一点をじっくり見る作業は実はおろそかになりがちである。しかし、キャラクターが互いに行き来しているかのような小品の数々によくよく目を凝らせば、個々の絵が放つ独自の魅力に気付き、展示をよりいっそう堪能することが出来るだろう。二艘木氏のように、会場でこれはと思える一枚を見つけてみてはいかがだろうか。

脚注
※1
小田島等監修『1980年代のポップ・イラストレーション』アスペクト、2009年3月。「日本イラストレーション史 語られてこなかった、もうひとつの「美術史」がここにある」『美術手帖』第932号、2010年1月、7-150頁。小田島等『ANONYMOUS POP 小田島等作品集』、ブルース・インターアクションズ、2010年6月。

※2
ただし箕浦建太郎は画家であるが、本人曰く音楽活動をしていたため画家としてのスタートが遅れ、美術関係者の知り合いがほぼいないという。箕浦は、小田島が「人はなぜ絵を描くのか」という根源的な問題を問い直してしまう程の膨大な枚数の絵を常に描き続けているが、今年行った展示は居酒屋のみであったという義憤も本展には込められているとのこと。

※3
二艘木洋行が同会場で行った個展は「直線・コピペ・リドゥ・塗り潰し」(http://www.cltvt.org/page/3)。二艘木の作品や詳細については「日M・Y・U・U・J・I・K・K・U本」(http://myuujikku.blog104.fc2.com/) もしくは 「UNKNOWN POP」(http://unknownpop.com/)を参照。
最終更新 2015年 10月 20日
 

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