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菅亮平:BLACK BOX
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 10月 19日

《Fictional Scenery -09》2010年
ミクストメディア・パネル|97 x 130.3 cm
画像提供:YOKOI FINE ART|Copyright © Ryohei Kan

菅亮平(1983 愛媛県生まれ)の東京美術倶楽部で開催されるアートフェア「+PLUS」と二会場での同時開催個展。

薄暗い部屋の中うっすらと浮かび上がる一脚の椅子。時を刻むのをやめた柱時計。人の面影をわずかに残す食卓。あたかも現実の風景のように見えるが、実はこれら全てが1/12スケールの模型をもとに制作されている。菅の制作手順は、模型製作、撮影、描画となっているが、菅はこの一連の過程を「念写」という言葉に換言する。

自分以外の誰にも見えないものが見える事、そしてそれを誰もが見える形に表せる事、それはアーティストと呼ばれる人間の職能である。1931年当時、人類の誰も観測出来なかった月の裏側を写したという三田光一の「念写」は、アートと通じるところがあるのではないか。しかし、残念ながら私には念写の力がない。それならば、複数のメディアを横断しながら、「念写」を造形言語で再構築して、キャンバスにイメージを定着させようと思い、現在のシステムを作り上げた。

菅の作品を目の前にすると様々な疑問が浮かぶ。菅にしか見えない世界とはどのような世界なのだろう。菅の描く世界には、人が存在しない。描いた作者の存在さえも感じられない、不可思議で冷徹な映像としての絵画表現。菅はなぜそこまで一見迂遠にも見える手法に固執するのだろうか。

私たちの認識する世界の背景には、常に「死」の存在がある。そしてその「死」のリアリティーを作品化するためには、身体性が介在する「ペインティング」という行為では不可能だと、私は思った。私が探し続けているのは、いわば私自身が死に絶えた後の世界を私自身が描こうとすること。不可能な「ペインティング」を実現するための「ペインティング」なのだ。

菅はもともと緻密な階調表現を得意とするフォトリアリズムでその存在を知られた作家だが、それも写真を忠実に再現する事で、自分自身の身体性を消し去ろうとする試みであったのだろう。作家にとって初の個展となる本展では16枚にもわたる連作「Fictional Scenery」を中心に、YOKOI FINE ARTおよびPLUS二会場にてその世界を展開する。インクジェットプリントとエアブラシ技法を組み合わせて、デジタルデータを支持体に定着させる独自の技法、「念写」。彼の新たな表現の可能性に是非触れてほしい。

菅亮平 / Ryohei Kan
1983 愛媛県生まれ
2005 武蔵野美術大学造形学部 油絵学科入学
2009 武蔵野美術大学造形学部 油絵学科卒業、東京藝術大学大学院 美術研究科 絵画専攻入学

【個展】
2010 「BLACK BOX」(YOKOI FINE ART, 東京美術倶楽部 / 東京)

【主なグループ展等】
2005 「ノアノア展」(愛媛県立美術館 / 愛媛)(〜2006)、「12exhibition」(orange gallery / 東京)
2006 「主体と客体の間」(武蔵野美術大学 / 東京)、「線の集積・面の集積」(武蔵野美術大学/ 東京)、「五美術大学交流展」(武蔵野美術大学 / 東京)(〜2007)
2007 「ときめき☆鑓水ランデブー」(多摩美術大学 / 東京)、「広がりと深さ」(武蔵野美術大学 / 東京)、「via art 2007」(シンワアートミュージアム / 東京)(〜2009)
2008 「Emerging Buds Debut 2008」(exhibit Live&Moris / 東京)、「遊美-yubi-」(タワーホール船堀 / 東京)、「ときめき☆鑓水ランデブー 相模原SP」(相模原市民ギャラリー / 神奈川)
2009 「平成21 年度武蔵野美術大学卒業制作展」(武蔵野美術大学 / 東京)、「第32 回東京五美術大学連合卒業・修了制作展」(国立新美術館 / 東京)、「アートサイト岩室温泉2009」(新潟県岩室温泉旅館13 軒 / 新潟)、「サイボーグの夢」(アートトレイスギャラリー / 東京)、「財団法人佐藤国際文化育英財団 第18回奨学生美術展」(佐藤美術館 / 東京)
2010 「デジタル・オイル・ペインティング展 -油画描画シミュレータを使って- 東京藝術大学 + 東京工業大学」(東京芸術大学大学美術館 / 東京)、「山本冬彦コレクション展」(佐藤美術館 / 東京)、「くじらコレクション展−20 代・30 代の作家たち」(湘南くじら館 / 神奈川)、「西洋画模写展 -その技法と材料-」(art data bank/東京)、「via art 2009 Kurata prize exhibition」(シンワアートミュージアム / 東京)

※全文提供: YOKOI FINE ART


会期: 2010年11月19日(金)-2010年12月4日(土)

最終更新 2010年 11月 19日
 

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