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山下耕平:トラバース
編集部ノート
執筆: 平田 剛志   
公開日: 2010年 10月 14日

《Anseilen(cairn)》アクリル、寒冷紗|1800x2200mm
画像提供:帝塚山画廊|Copyright © Kohei Yamashita

1920年代、エベレスト登頂の遠征隊に3度参加した人物にイギリスの登山家、ジョージ・マロリーがいる。彼は「なぜ、あなたはエベレストを目指すのか」と問われたとき、「そこに山があるからだ」と答えた有名なエピソードがある。

山下耕平もまた、山にとらわれている作家だ。山下は、山頂や登山路に道標や記念として石を円錐状に積み上げた「ケルン」を核に、そこから派生する「集積」「球・円」「ミクロ・マクロ」「遠近」をテーマに絵画、コラージュ、彫刻、インスタレーションなどを制作している。また、登山者たちが登山時に着用するウェアやヘルメット、シュラフ(寝袋)などのアウトドアカルチャーを美術に取り入れ、その鮮やかな色彩が散りばめられた作品を展開している。

本展でも展示される『Anseilen』(2010)はケルンを登るクライマーたちを描いた作品だ。望遠鏡で山を覗き見るように、ザイルに繋がれたクライマーたちの姿が点々と描き出されているが、クライマーたちが着用するウェアの持つカラフルな色彩が山を雄大で崇高な対象としてではなく、アウトドアカルチャーとして山を楽しむクライマーたちの光景へと変換している。

谷川が初個展を「自画像」をテーマとして掲げたことは、今後の制作、発表を考えたときベースとなる展覧会となるだろう。自画像の出発から、今後どのような自画像=世界を展開していくのか注目される。

山は多くの宗教が信仰、神聖な対象として扱ってきたことから、美術においても山は崇高かつ霊的に表象されてきた。だが、山下の制作する山は、山の持つ崇高さはあまり感じられない。なぜなら、山下は山という存在ではなく、登山という行為や経験、記憶をもとに制作をしているからだろう。

「人はなぜ山を目指すのか」

日ごとに秋が深まるこの季節、帝塚山(画廊)をクライミングして、その答えを考えてみたい。エベレストに行くよりは、登りやすいだろう。

最終更新 2015年 10月 31日
 

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