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田中秀和:Composite
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 10月 08日

画像提供:児玉画廊
Copyright © Hidekazu Tanaka

先日の児玉画廊|東京での個展「reconstructing creation」では、近年制作の主体となっているペインティングにおけるイメージの「連続性」及び「再生」という新たな傾向を見せる内容でしたが、今回の「Composite」では、その対比として田中の出発点である即興性の強いドローイングやライブペインティング、鏡やガラスなど利用して田中の特徴ともなっている多層性を視覚的に具体化させた作品等、敢えてペインティング以外の仕事にフォーカスする事によってむしろ田中のコンセプトのアウトラインを明瞭にし、作家が制作に向けて研ぎ澄ましてきたその感性を辿る展覧会です。最新作品に加え、未発表のものを含む過去作品も織り交ぜ、そしてオープニングでは同時開催のKodama Gallery Project作家である阿波野由起夫とのコラボレーションによるライブペインティングを実施するなど、現在のペインティングのスタイルを確立するに至るまでの足跡がにわかに浮かび上がるような内容となっております。

田中にとってドローイングは自分の意思から離れた位置にあって、そしてそれは田中がペインティングで追求しようとしている事の本質でもあります。まるで画像をレイヤーで重ねていくような画面構成、そして、衝動的なストロークや偶発的な形を複写して繰り返したり、後から手を加えて整形したりすることでコントロールしていく、こうした田中が現在ペインティングで行っている複合的な手法は、そもそもドローイングなどで得られる無意識的に描写が進んでいく感覚をいかにペインティングに持ち込むかということに端を発しています。例えば田中が断続的に実施してきたライブペインティングは映像とのセッションによって制作されます。過去の作品の断片イメージを投影したり、あるいは描いている壁面の様子を同じ壁面に動画で上映し、それを元にまた描き足していきます。お互いに追いかけ、せめぎ合う様子は非常にセンシティブで、迫力に満ちています。伸縮や角度など映像の自由度に合わせて思いもよらぬ変化がペインティングにも反映されていく生々しい可変性や、同一平面上に映像と絵具の異なる層が次々に重なっていくそのプロセスは、そのまま田中のタブローの制作に引き継がれたことで前述の手法へとシフトし、今や田中の作品を特徴付けるものとなっています。

映像など別の要素に従って絵を進める、という方法は、それを機能的に利用するという能動的な側面よりも、それによってひっぱられるように、まるでそうせねばならないかのように描き進めるという受動性に基づいていて、不要な自我を消し、瞬間瞬間の判断を頭ではなく腕が下していくような、より無意識に近い感覚を生むための行為です。そして今回発表される最新のドローイングにおいては、予め大きめに描いておいたものを気に入った箇所でトリミングしたり、筆や木炭を何本も同時に握って線を描くなど、ドローイングから派生したペインティングの方法論をもう一度素朴な形に還元して再考するような作品も見られます。2004年、田中の児玉画廊での初個展もウォールペインティングとドローイングによるものでしたが、大きな軌道を経て原点に立ち戻った今展覧会を前に今後の更なる進化を確信せずにはおれません。

※全文提供: 児玉画廊


会期: 2010年10月9日(土)-2010年11月13日(土)
レセプション: 2010年10月9日(土)18:00~
                    19時より田中秀和 × 阿波野由起夫 ライブパフォーマンス実施

最終更新 2010年 10月 09日
 

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