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笹田晋平:ホメオカオスの油壺
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 9月 20日

画像提供:Ohshima Fine Art|Copyright © Shinpei Sasada

笹田晋平の作品について
まずは、作品とじっくり対峙してみたい。
銀色の台の上に[肉]の衣をまとった女がいる。傍にいる無邪気な子供を見ていない。反対側の牛も見ていない彼女は美しく物憂げなその表情で何を考えているのか理解し難い。しかし、そのほっそりとした身体に纏う[霜降り肉]の衣は、どこまでも美しい。右手には、血を流して死に向かう牛。その血は流れ流れて、煙の中に消える。牛の皮膚と筋肉は、石膏と砂で加工したキャンバス地に筆を重ねた表面によって、とてもリアルな印象を与えている。画面左に位置を占める枝肉も同様な印象を与える。
しかし、画面は丁寧にタッチを重ねた精緻なもので一見リアルなのだが、よく見ると実はリアルでないことに気がつくだろう。それでも鑑賞者の眼は画面の美しさに魅了される。それは、リアルな彼の筆致が、“ハイパー”リアルというよりむしろ、かたちの理想化と空間への配置への執着を徹底させる という指向性を持った結果なのだ。絵画の中の造形や構図に絶えず気を配る笹田の態度は、非常に真摯でそして優しい。

「かたちをつくる」という芸術の基本を重視している点、また、制作に向きあう姿勢として“油画”としての形式美を追求する点、日本古美術からの引用 などから、笹田の創作は和洋の古典的な手法を踏襲している。しかし、この作品が、古典となっている日本“油画”に混ざって展示されていたら異質な気持ちを抱かせる。さりとて、昨今の映像的な感覚を持ったペインティングや表層を流れる“ライト”な現代美術の展覧会にあってもおそらく馴染むことはない。この「違和感」こそ、笹田作品の肝なのである。

思えば、日本が近代化に向かう時代に、新たにもたらされた西洋絵画を学習した当時の画家たちは、自国の伝統と外国文化の激しい葛藤の中で盛んに描いた。しかし、その結果、西洋風であるが西洋絵画と違う日本独特の土臭さをもった“洋画”が誕生した。それらは、「西洋絵画」にはない何かしらの力を持ったキメラであったはずだ。西洋絵画にも伝統的な日本絵画にも当て嵌められない作品。この辺りにも笹田の創作のヒントがあるだろう。

さて、改めて、彼の作品を振り返ってよく見てほしい。
日本の土着性を保持しながら、西洋への憧憬や古今東西の芸術への尊敬、またモチーフの愛着を感じ、洋画でもない/日本画でもない/リアルでもない/現代でもない/古典でもない…。この“でもない”の螺旋上でどこまでも逸れていく特定のカテゴライズを否定する絵画。これが笹田晋平の表現なのかもしれない。

作家略歴
1984年 大阪府生まれ
2007年 神戸大学 発達科学部卒

2007年  「Presentashion&Exhibition2007」/アートコートギャラリー、大阪、トーキョーワンダーウォール2007/東京都庁
2008年 GEISAIミュージアム2/東京ビックサイト、TWS-Emerging109「法華経フォン・ド・ボー」/トーキョーワンダーサイト本郷
2009年  GEISAI#12/東京ビックサイト、「100 degrees Fahrenheit vol.1」/CASHI、東京
2010年  SPRING SHOW – Room with a view-ten artists,ten creations/Ohshima Fine Art、「ホメオカオスの油壺」/Ohshima Fine Art

受賞歴
2007年 トーキョーワンダーウォール賞 トーキョーワンダーウォール公募2007

※全文提供: Ohshima Fine Art


会期: 2010年9月25日(土)-2010年10月16日(土)

最終更新 2010年 9月 25日
 

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