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松嶋由香利:軽業修行
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 8月 26日

画像提供:児玉画廊 | 京都
Copyright © Yukari Matsushima

松嶋は昨年3月に京都市立芸術大学大学院研究科絵画専攻を修了、児玉画廊では同大学院在籍中の2007年から「Kodama Gallery Project」や「ignore your perspective」などの企画展、それと同時に、アートフェア東京などの各アートフェアにおいても積極的に紹介し、その異彩を放つ作品の存在感は多いに注目を集めています。昨年の初個展「vacant evil」(児玉画廊|東京)では、楽しげな空想と恐ろしげな奇想が入り交じる空間を演出し、そのひとかたならぬ世界感の一端を垣間見せました。

松嶋はキャンバス上に溢れんばかりのイメージを描き込みます。そこに描かれるのは、元は例えば山や海の自然、植物、波のうねり、人工物では花火や壁紙の模様などですが、それらは作家の手によって装飾的に変化します。花が唐草文風に画面に浮遊するかと思えば、有刺鉄線が縦横に錯綜したり、花火はクラフトパンチで切り抜いた雪印の紙片になり、水引やリボンのうねりが風や波と絡まるようにして、次々に画面を飾っていきます。クモの糸や網の広がりを思わせるようなスペーシーな線の重なりや、ラメやコラージュを用いたきらびやかな色彩によって、一見、華美な印象を与える画面の端々には何か不気味なシルエットが潜んで奇怪な存在感を放っています。とは言っても恐怖や残酷に戦く、というよりもむしろ可笑しげで寓話的なものです。物語を見聞きして感じる不思議な非日常性、想像力が箍を外してしまった時のようなスリリングな高揚感、お化け屋敷やジェットコースターのような擬似的な恐怖感、松嶋の作品に詰まっているのはそういった心を弾ませるようなもの、と言えば近いかも知れません。

今回の「軽業修行」では、浮世絵で見た江戸の軽業や、あるいは大道芸、サーカスなどにインスピレーションを得た作品を発表します。松嶋は、心に浮かぶ漠然とした完成図とも世界感とも言えるイメージ群をキャンバスに描き取っていくように画面を構成していきますが、そのきっかけたるイメージをどれに定めるかによって作品に様々な展開が生まれます。例えば「綱渡りをする子供」というイメージを発端とすれば、それを取り巻くようにたなびく飾り布が描かれ、そして花が舞い散る幻想的な月夜の響宴が賑やかに立ち現れていく、といったように、次々と目眩くイメージの連想が、膨張したり凝縮したりしながら画面上に繰り広げられています。無秩序に寄り集まったように見えるそれらも、些細ながらもどこかでイメージのつながりを持っていることで、一つの舞台演出のようにその作品の物語を形作っていきます。軽業師が見せる離れ業の危なっかしさに緊迫しつつも、恐いもの見たさで目が離せない、相反する感情が入り交じった楽しさのそれに似て、奇妙な物、日常からズレた現象が纏う不穏な空気を逆手に、お気楽なおかしみへと変容させてしまう今回の個展は、それ自体がどこか享楽じみた演芸のようで、まさに「見てのお帰り」の呼び声よろしく、期待感に胸も躍るようです。

※全文提供: 児玉画廊 | 京都


会期: 2010年8月28日(土)-2010年10月2日(土)

最終更新 2010年 8月 28日
 

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