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石井亨:都市の時間
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2010年 7月 30日

《土工》2010年|友禅染、絹、パネル|990x1650mm | 画像提供:ミヅマ・アクション|Copyright © ISHII Toru

1981年生まれの石井は伝統的な友禅染*の技術や歴史を学び、東京藝術大学大学院修士課程工芸染織専攻を今春修了しました。

石井は友禅染を実用品としての工芸からビジュアルアートへと応用させます。従来の模様とは異なるところどころに作家のユーモアが溢れるポップで大胆な構図、目が覚めるほど鮮やかな色彩、それらすべてが絹の繊細な質感を纏って表れます。その独特で圧倒的な存在感には強く惹きつけられます。

また今回の展示では初めて加賀友禅の古典柄を作品に取り込むなど、伝統の更なる前進を意欲的に試みました。軽快かつダイナミックでありながらも細部にまで緻密さを追求した作品群は、ただただ圧巻です。

石井の初期の作品は、ヒップホップカルチャーの一要素であるグラフィティに影響をうけたモチーフでした。その後イギリスのチェルシーカレッジオブアートアンドデザインへの留学を経て、客観的に日本とそこから紡がれてきた伝統技法、自らの作品を真摯に見つめ直しました。そしてモチーフは現代日本社会の象徴“サラリーマン”、そして今回はそこからさらに視野を広げた“都市”へとテーマが移り変わりました。いずれも作家が日常生活を通して見つめた現代社会が反映されています。かつて尾形光琳、葛飾北斎は伝統技法を用いながらも当時の社会を取り込み、過去にない大胆華麗な絵を描くことにより革新的な名作を生み出しました。石井は日本美術の文脈を築きあげてきた先人達の意思を引き継ぐように、伝統を乗り越え新しい普遍的な価値を創り出していくことに挑戦しています。

伝統工芸を現代美術へ転換するという独自の切り口で、世界でも評価される革新的な芸術を志す石井。未来を担う若手作家の、不況にも打ち勝つほどの強いエネルギーに満ちた本展を、是非ご高覧ください。

*江戸時代の厳しい幕府の制約のもと生み出され、主に着物の柄に用いられる。 糸目糊という糸状ののりで色をせき止めながら絹に花鳥風月や自然物などの優美な模様を描き、色鮮やかに染め上げる技法。

※全文提供: ミヅマ・アクション


会期: 2010年9月1日(水)-2010年10月2日(土)

最終更新 2010年 9月 01日
 

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