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山田七菜子:カワハリ星
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 6月 21日

画像提供:iTohen|Copyright © Nanako Yamada

 

「カワハリ星」とは、野尻抱影の著書「星三百六十五夜 冬」の「七草」という文章の中で出てくる星の名前です。
夜明け前の3時, 4時頃に南の空にムジナの皮を張った形に輝き、炭焼きや馬方が「カワハリが出たで、起きるんだべし」と、時刻を知る目印にしていた、と書かれています。一 般には「烏座」と呼ばれるそうです。 野尻抱影は、カワハリ星という名前について、星を貧しい暗い名前で呼ぶ人々の生活にがっかりしています。 私は、この星の名前と自分の作品が似ているように思います。 私はこの星の名前を気に入って、度々思い出します。

私の作品のモチーフの多くは、女性と妖精のような存在(自分を投影している)、女性の想う相手の男性、精神病院です。
そして、一つとして固有の風景を記憶していない、なのに何度も何度も思い出す、山と海と空。 それらは、私の日々の背景に、ほぼ常に寄り添ってきたものです。
私は思い出します。病室や、風呂、ランチルームを。ですが、それらは、描かれた時にはすでに遠い星です。 私は、夜な夜な自らの記憶を空に打ち上げては眺めます。
光(記憶)をたどって星に降り立てば、多分生きていくことはできない。

作品は、過去にはならなくて、生成され続けるバラッドや民話、神話のようなものだと思います。そういうことからも、星に似ていると思います。
私には私以外の人の事ははっきりとわかりません。ですが、星の並びを見て「カワハリ星」と名づけた人々は、厳しい生活に寄り添う労働の「皮張り」という作 業を、空に打ち上げたのかもしれないと思います。
-山田 七菜子

山田 七菜子
1978年 京都府生まれ

個展
2008年 Oギャラリーeyes(大阪)
2009年 Oギャラリーeyes(大阪)
2010年 Oギャラリーeyes(大阪)・カワハリ星(iTohen・大阪)・御殿山生涯学習美術センター(枚方)※7月開催予定

グループ展
2006年 三寒四温(GALLERY wks・大阪)
2007年 三寒四温(GALLERY wks・大阪)・鍋と、音楽と、ドローイングの夜明け(大阪造形センターOZC kalavinka,    OZCgallery・大阪)
2008年 三寒四温(GALLERY wks・大阪)・第1回swimy協同企画公募展 おんさ(音の作品で出品参加/beyer・大阪)
2009年 奈良アートプロム 公開会議vol.2+プレ展覧会in CASO(海岸通ギャラリーCASO・大阪)
2010年 reseauⅡ- solide (Oギャラリーeyes・大阪)・芸術系NPO支援育成事業「さようならとはじめまして」(piaNPO・大阪)・文化の森ギャラリー2010/WOODS LAND GALLERY(みのかも文化の森敷地内野外・岐阜)

※全文提供: iTohen


会期: 2010年6月16日-2010年6月27日

 

最終更新 2010年 6月 16日
 

編集部ノート    執筆:平田剛志


少女や妖精たちの食卓、ダンス、あそび・・。だが、色彩は暗く、ムンクの描く絵画のように不安感が漂う。

その不安さは作品の展示にも反映されている。一部の絵画は壁に掛けられるのではなく、壁に「立てかけられている」のである。また、箪笥やアクリル衣装ケースの引き出しが展示に用いられ、引き出しの上や内側に作品が置かれているものもある。本来、ものを収納するために用いられる引き出しがここでは絵画の構成要素となり、用途を失わせる。その設置の不安定さは本展の世界観を象徴しているのかもしれない。

だが、引き出しとは前に「引き出す」ためのものだとすれば、山田の絵画は私たちの引き出しに仕舞われていた感情を引き出すことだろう。夜空に浮かぶ星の光を眺めるように、山田の絵画に現れる「カワハリ星」を見る時、私に不安は消えていた。


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