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山本直彰:帰還
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 6月 20日

《帰還 Ⅶ--我々は何処へ行くのか》2010年 薄美濃紙,アートレンジ,岩絵具,墨,箔|291.0×737.6cm 画像提供:コバヤシ画廊|Copyright © Naoaki Yamamoto

昨年の平塚市美術館での個展が高く評価され、つい先日には今年度第60回芸術選奨を受賞した山本直彰の新作個展。

「日本画」「日本画材」にこだわりながら、従来の日本画界のありように疑問を持ち模索していた山本直彰の転機は1992年。文化庁の海外研修員として訪れた民主化に揺らぐ政情不安定なプラハでのことでした。路上にに打ち捨てられた本物の「ドア」を支持体とする物質感溢れる「DOORシリーズ」は「日本画」を突き抜けた新たな表現世界でした。

その後、深い黒を切り裂き滑空/落下するイカロスを描いたストレートな作品へと主題は移りかわり、近年は、床板に広げた和紙に、膠に溶かした煤と顔料を浸して描いていく手法を用いています。床や紙の凹凸の中で偶然に得られる夥しい斑や筋、描画された線、箔などの多彩な表情が、画面の中で緊張感のあるバランスをとっています。 本展覧会は昨年の平塚市美術館に続き。新境地を開く新作「帰還」をテーマに、発表いたします。新作の大作3-4点と小品を画廊内に展示予定です。

作家コメント「帰還」
いつからか「遠ざかる感覚」に密かな歓びを覚えるようになった。何か遠ざかるのだろうか。時か我が身か、絵画という僕と僕自身の虚ろな距離に吸い込まれる記憶の未来であろうか。そこは始めから崩れかけているのか、僕が見ること触ることによって朽ちてきたのか、徐々にその姿が覆い被さってきては遠のいて行く。その行き来の道すがら、できれば言葉を詩人たちが命がけで紡ぐように、詩の宮殿のようなものを創りたいのだと思ったりもした。
しかし、何をしたいのか……僕は
そして、僕は何処へ帰ろうとしているのか 何処へも帰れはしないのに

猥雑な現実の向こうに、確かに聞こえる風の音。その束が消えそうになりながら列なっている。その糸を手繰りながら、僕はその上を歩いているのだ。いつ落ちるかもしれないその上を。これからも生き続けなければならないどうにもならない空虚の上を。

この冬、何者かが厳しく僕の扉を叩いていた。「あなたに言いたいことがある」この言葉が頭上から聞こえてきた。シモンはこう答えた。「どうぞ仰って下さい」製作中に何度か聞いて幾度か同じように答えた。
人生の大半は後ろめたい。伴奏ばかりで歌はない。
「何もない。その何もないところに風だけは吹いているのか?」

生の欲望、そして死への欲望。その休憩時間を6月の風がそよぐ。紅い葉が小きざみに揺れる。
ああ、ああ……と僕はつぶやく。

作家略歴
1950年横浜生まれる
1975年愛知県立芸術大学大学院日本画科修了
1992-93年文化庁芸術在外派遣研修員としてプラハに滞在
2009年武蔵野美術大学客員教授
2010年第60回芸術選奨文部科学大臣賞受賞

2001年「椿会展」資生堂ギャラリー [以降04年まで毎年出品]
2002年「第1回東山魁夷記念日経日本画大賞展」<入賞>ニューオータニ美術館,東京 [04年]
2003年「現代の日本画–その冒険者達」岡崎市立美術館
2004年「超日本画宣言-それはかつて日本画と呼ばれていた」練馬区立美術館
2008年「新収蔵作品展 -『賛美小舎』上田コレクションより」東京都現代美術館, 東京
2009年「山本直彰展」平塚市美術館, 神奈川
コバヤシ画廊などで個展多数。東京国立近代美術館をはじめ東京都現代美術館、国立国際美術館 他などに多数収蔵

※全文提供: コバヤシ画廊


会期: 2010年6月21日-2010年7月3日

最終更新 2010年 6月 21日
 

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