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笹山直規:事故現場
編集部ノート
執筆: 田中 みずき   
公開日: 2010年 4月 12日

満開の桜から花びらがチラチラ降る穏やかな通りを抜けてギャラリーに入ると、そこに広がるのは凄惨な事故現場である。
壁一面に並ぶのは、半壊した車や臓器も露な負傷体が写実的に描写された絵画作品。しかし、ポップな色彩と、人体模型のような負傷者の肢体、ハリウッド映画をイメージさせるような背景からは悲劇性は感じられない。鮮やかに塗り込められた日常の禍々しさと、事故の生み出した急激な変化の対比のほうが、鮮烈に目にささる。微笑む傷だらけの顔の少女は、もはや、変化のあるがままを受け止める神々しささえ湛えている。
ぜひ、大画面の前に立ち、自分がその現場に入りこんでしまったような錯覚に陥りながら観る面白さを味わって頂きたい展覧会。以前から生と死を見つめ絵画を制作してきた作者は、絵具も自作しているそうで、その作品への向き合いかたや今後の展開も気になる存在である。  春の日、昔読んだ小説の、桜の下に埋まっているのは何だったか、なんて考えながら帰るのも悪くない。

最終更新 2010年 6月 27日
 

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