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市川孝典:murmur
編集部ノート
執筆: 桝田 倫広   
公開日: 2010年 2月 06日

彼の作品は、一見、陰影の強いモノクロ写真のように見える。しかし、それらは写真ではない。近くに寄ってみれば、作品である紙の上にどうやら無数の穴が空いている。ひとつの穴は、いわばひとつのピクセルであり、ピクセルの総体が、ひとつのイメージを形成する。この穴は、彼が線香の炎によってひとつひとつ焦がして作り上げたものだ。焦げにはそれぞれ微妙な諧調があり、諧調の変化が紙の上にひとつの精妙な光景をつくる。無数の穴のあいた紙は、今にも崩れそうだ。

しかし、その物質的な脆さとは対極的に、紙の上に現出したイメージは、フラッシュバック(閃光)のような鮮烈な強度を持っている。 本展に展示された作品群は、すべて木々をモチーフにしている。そこには物語性や象徴性を読み取ることは難しい。しかし、それだからこそ彼の作品は、フラッシュバックなのだ。時として意図なく湧きあがる記憶の一断片が、我々の心に、むかうところのないざわめきや郷愁を与えてくれるように。 市川氏は、今年のVOCA展(@上野の森美術館、2010年3月14日-30日)にも出品予定である。

最終更新 2015年 10月 31日
 

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