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だれもいないまちで
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2010年 2月 14日

杉浦慶太《惑星 No.054》 © SUGIURA, Keita 2009 画像提供:山本現代

この展覧会では、小林耕平の「1-10-1」、西尾康之の「蟻塚、ジオラマ」、杉浦慶太の「惑星」の連作という人間の登場しないジオラマの世界や無人の町の風景をモチーフに据えている作品を一同に展示することで、『ひと』への問いを立ち上がらせることを試みます。 小林耕平の「1-10-1」は、人体はおろか人の気配までをも排除した白いジオラマの世界を撮影し、構成したモノクロ/無音の映像作品です。紙製のジオラマの街は住宅群、遊園地、倉庫、公園のような我々が日常の中で体験してきた光景のようでありながら、全く特定できない無表情で奇妙な「場所」に感じられ、滑るように白い幻影の世界を延々と捉えて進んでゆくこの作品は、一種の悪夢のように私たちの胸に迫ります。 西尾康之の「蟻塚、ジオラマ」は指で彫り進んだ雌型から形を起こす西尾独特の技術、陰刻鋳造でつくられた都市の模型です。およそ1 メートルから1 メートル半程度の大きさに縮小されたタワーやビル群が織りなす約3メートル四方の異形の街は、言うなれば人間の「巣」のジオラマであり、西尾の指の形のままに内側から膨らんだ無数の窓や構造体は、作家の身体の痕跡そのものです。マクロ的視点から人類の活動を見渡した際に、ビルの内側に凝る生命力のうごめくような脈動を感じずにいられないでしょう。 杉浦慶太は主に写真表現を用い、精力的に活動を続けている岡山県在住の作家です。この度のテーマに沿って出品される作品は「惑星」と名付けられた連作の中の一部です。この作品群では田舎町の深夜の水銀灯や、自動販売機、ガソリンスタンドなどを映し、包まれるような巨大な暗闇の中に屹立する人口の光を切り取っています。どこの田舎町でも見かけるこの光景は、利便性の追求が土着的な匂いを駆逐して行く、均質化された現代社会の哀しみをドライに伝えてくるようです。 三者の作品の中には、人間の姿はありません。しかし、人間でしか作り得ない構造物を前にすることで、“人間”そのものの存在感が逆説的に際立ってくる作品であるとも言えます。これらの作品に対峙した人間は丸ごと飲み込まれ、佇んでしまう、そんな緊迫感に満ち満ちています。だれもいないまちに取り残された我々は、その無音の世界の隙間から立ち上る、鳴り止まぬ耳鳴りに何を聞くのでしょうか。 小林耕平
1974 年東京都生まれ。愛知県立芸術大学美術学部卒業。90 年代後半監視カメラなどを用いた映像作品を制作。個展:1999 年『小林耕平1』(アートスペースdot/名古屋)、03 年『小林耕平5』(スカイ・ザ・バスハウス/東京)、05 年『小林耕平6』(山本現代/東京)等。グループ展:2005 年『ベリー・ベリー・ヒューマン』(豊田市美術館/愛知)、06 年『第3 回府中ビエンナーレ』(府中市美術館/東京)、07 年『六本木クロッシング』(森美術館/東京)、09 年『ヴィデオを待ちながら』(東京国立近代美術館)等多数参加。 西尾康之
1967 年東京都生まれ。武蔵野美術大学彫刻科卒業。指で粘土を押して雌型をつくる独自の技法「陰刻鋳造」で彫刻を、また水墨画、油彩画等も制作。 個展:2004 年『Transform─変態─』(山本現代/東京)、06 年『優麗』(山本現代/東京)、09 年『DRAWN』(山本現代/東京)等。グループ展:2004 年『六本木クロッシング』(森美術館/東京)、05 年『GUNDAM─来るべき未来のために─』(サントリーミュージアム天保山/大阪)、06年『ライフ』(水戸芸術館現代美術ギャラリー/茨城)、07 年『現代美術の皮膚』(国立国際美術館/大阪)、08 年『KITA!! Japanese Artists Meet Indonesia』(ジョグジャカルタナショナルミュージアム/インドネシア)、『釜山ビエンナーレ』(釜山)等多数参加。 杉浦慶太
1980年岡山県津山市生まれ。山梨県都留文科大学文学部国文学科卒業。教師を目指し進学した大学で写真表現の魅力に出会い、本格的に作品の制作を開始。2008 年『GEISAI MUSEUM#2』でヴィクター・ピンチュック賞を受賞、同年秋の『GEISAI#11』で銅賞を受賞。現在は岡山県津山市で活動中。個展:2009 年『森̶Dark Forest̶』(CASHI Contemporary Art Shima/東京)、『灯火̶ともしび』(岡山県天神山文化プラザ/岡山)、グループ展:2009 年『Project Room ‒Keita Sugiura-』(Pinchuk Art Center/ウクライナ)、『共鳴する美術2009̶表現への挑戦̶』(倉敷市立美術館/岡山)等多数参加。 ※全文提供: 山本現代

最終更新 2010年 2月 20日
 

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