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利部志穂:serendipity 妙のとき
展覧会
執筆: カロンズネット編集   
公開日: 2009年 12月 02日

画像提供:利部志穂

「彫刻、 何処でもない場所のカケラ」 と題して行われる本企画では、 第2回に利部志穂を迎えて個展が開催されます。現代において芸術とは、固有のジャンルがより拡散していく傾向にあり、 絵画、 彫刻といった定義はますます曖昧になっています。むしろそれらの概念は、 今や意味を失効し、 何ものをも意味しえないともいえるかもしれません。そのような各ジャンル間の脱境界化という状況にありながらも、 本企画においてはあえて彫刻への問いかけがなされます。 固有の場や意味といった、伝統的な彫刻がもちえた要素を次々と喪失し、 断片化されていった彫刻。 そのような、まさしくカケラと化しながらも無名の場所において立ち現われてくるのは、 彫刻という名の亡霊かもしれません。 この 「彫刻のようなもの」としか言いようのない現象について、 先鋭的な活動をしている作家の作品を通して考察することは、 必ずや私たちを彫刻の 「源−点」へと導くことになるでしょう。

利部志穂は、 これまで廃材を解体−再構築する手法を用い、鉄パイプや木材をグリット状に構成することで、 きわめて建築的要素の強い作品を制作してきました。 今夏に行われた 「所沢ビエンナーレ美術展『引込線』 」 で発表された 《281/昼夜》 (2009)は、 引込線の線路に沿いながら全長が85mにも伸長された巨大な立体作品でしたが、そこで作家に強く意識されたのは、 これまでいくどか言及されてきた 「通過」の概念でした。 本展においては、作家によって日常的になされる無目的的な街の徘徊により廃材と出会う探索行為と、鑑者の鑑賞行為としての歩行が生み出す持続的な体験が重なりあうことで、視覚だけではない物質に対する身体的な認識のありようが問われることとなります。 彫刻をつくることに常に自覚的な利部によって変質される展示空間は、「彫刻のわからなさ」 に起因する彫刻のある見方を提示する可能性を秘めているといえます。
-森 啓輔(本展企画者)

利部志穂 (かがぶ・しほ) 略歴
1981 神奈川県生まれ
2004 文化女子大学立体造形コース卒業
2005 多摩美術大学美術学部彫刻学科研究生
2007 多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻 修了 個展:
2006 「掻く公転」space 1/3(東京)、 「スーパーマーケットドローイング」スーパーAlpus(東京)
2007  「フォント 〜で日を見る」なびす画廊(東京)、「家を持ち替える」旧作家住居の解体場所(神奈川)
2008  「家を持ち替える」表参道画廊(東京)、「新世代への視点─画廊からの発言」なびす画廊(東京)
2009 「ENTRANS FIELD ─耕せる民─」なびす画廊(東京) 森啓輔 (もり・けいすけ) 略歴
1978 三重県生まれ
2001 早稲田大学人間科学部人間健康学科卒業
出版社での営業職を経て、2009 武蔵野美術大学大学院芸術文化政策コース修了。現在 武蔵野美術大学芸術文化学科助手 ※全文提供: 利部志穂

最終更新 2009年 12月 03日
 

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