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「Scholar」-ガブリエル・デルポンテと湘南ゆかりのアーティストたち-
レビュー
執筆: 記事中参照   
公開日: 2018年 8月 09日

Scholar展の会場、藤沢市アートスペース(愛称FAS)は若手アーティストの支援を中心とした美術振興施設である。辻堂にある「ココテラス湘南」の6階のエレベーターから降りるとロビー、そして廊下から展示室2部屋、オープンスタジオまであり、落ち着いたワンフロアーの空間でなりたっている。アルゼンチン出身で米国フロリダ州マイアミビーチ市と日本を拠点に活動しているコンテンポラリーアーティスト、ガブリエル・デルポンテの作品群は正面の展示室で鑑賞できる。そして「湘南ゆかりのアーティストたち」4名の作品は廊下の壁面、ロビー、そしてもう一つの小さな展示室で鑑賞することができる。

エレベーターを降りた正面の大きな展示室にある作品群は写真、映像、彫刻、手紙など、いろいろな素材で作られたさまざまな作品。一見すると、異なるアーティストが数人、作品展示をしているように見える。しかし、これはすべてガブリエル・デルポンテの作品だ。

素材や表現方法はそれぞれ異なるが、注意深く鑑賞すると、大きなテーマが見えてくる。それは「時間を超えた人の歩みと今、そして未来」だ。《Semi》というカーボンファイバー素材のモバイルスタジオ、3点並んだ小さな《Urushi cup》、鳥取県で撮影された普通のアパートの写真、大阪の川で釣りをする夫婦の写真、早朝に江の島を散歩する中年の男性の写真、三重県、桑名の駅近くの電波塔、長崎の被爆者の証言の映像、そして木材と石膏でつくられた《Two pieces, and a foot》など。これらの作品はリアリズムあり、抽象性あり、また今もそして未来にもつながっていく歴史的作品としても捉えることができる。

デルポンテが今回発表した作品の特徴は「Bridge me Japan ブリッジミージャパン」が背景にある。これは俳人、松尾芭蕉に影響を受けて旅をしながら日本をつなぐというプロジェクトだ。そこで写真を撮影したり、アイデアを固めて旅の後に大部分の制作をしたりしたのだ。2017年7月1日付、神奈川新聞にこのプロジェクトについて記載されている。それによるとデルポンテは同年6月30日に2年10ヶ月の自転車日本横断旅を終えて、藤沢に帰ってきたという。「Bridge me Japan」のテーマが「コミュニケーション、適応、進化」であることを理解すると、デルポンテの作品をより興味深く鑑賞できる。

筆者が特に興味を持ったのは《Hikyaku letter》という作品だ。展示室の一角に何も書いてない便せんが机に置かれてあり、Scholar展に来た人たちにも手紙を書いてプロジェクトに参加するように促している。2014年からデルポンテが飛脚となり、人々の思いを届けたり、手紙を参加者に書いてもらったりする未完の作品である。日本の旅で出会った人々の手書きの手紙がたくさんファイリングされていて、自由に読むことができる。実在している人々の手書きの文字には味がある。また字の大きさやスペース感、選んだ便せん含め、すべて、ぬくもりがあるメッセージとして今、ここにつながっている。鑑賞している自分さえも「Bridge me Japan」の参加者であることを自覚するヒトトキになる。

ガブリエル・デルポンテ会場風景(Photo by Junji Kumano)

さて、Scholar展に参加している4名の「湘南ゆかりのアーティストたち」の紹介をしよう。4名とも神奈川県に何らかの形で関連している。うち3名は藤沢市で生まれたか在住している若手の作家たちである。今回はヴィジュアルアートの作家たちだけでなく、詩人とデザイナーも含まれているという点で現代美術が大きく捉えられている。

大崎清夏、Sayaka Osaki、神奈川県生まれ、藤沢市在住。詩人の彼女の作品は、会場の壁面のいたるところに他の作家の作品と織り交ぜられながら、展示してある。展示といっても、額に入った詩が飾られているのでなく、壁に直接カッティングシートから切り抜かれた文字が張り付けられているのである。彼女は今回の展覧会の“Scholar”をテーマにして、学者、 「まな ぶ もの」 という言葉を用いる。そこから「ま」つながりで4つの詩「まね ぶ」「まれ びと」「まる はな ばち」「まな ざ す」を披露している。展示だけでなく、特別な冊子も用意された。それは正方形の落ち着いたグレーの紙に、考え抜かれたタイポグラフィーを用いた大崎の詩集だ。

大崎清夏会場風景(まな ざ す)(Photo by Junji Kumano)

河本蓮大朗、Rentaro Kawamoto、鎌倉市生まれ、鎌倉市在住。4人の湘南ゆかりの作家たちの中で一番若く2015年に横浜美術大学工芸領域テキスタイルデザインコースを卒業。そして昨年、2017年まで同大学の彫刻コース研究生であった。精力的に作品を作り出している作家である。今回展示している作品はカラフルなテキスタイルが多く、目を引く。古着を用いた裂き織の作品ではあるが、素材は古着の他に染料、アルミニウムシート、ビニール、毛糸、麻ひも、綿糸などが使われている。2018年に制作された《Weaving#30》は330x450cmの大きなピンクとブルーのタペストリー、2017年に制作された《皮膚柱》は女性の舞台衣装の丈の長いドレスのような作品である。同じく2017年に制作された、織りと写真をコラージュして顔をイメージした作品もある。

河本蓮大朗《皮膚柱》(Photo by Junji Kumano)

フクナガコウジ、Kohji Fukunaga、藤沢市出身、図案家と名乗るデザイナーだ。今回はポスター、Scholar展のビジュアルデザイン全般を手がけた。彼の作風の特徴を知るにはインスタグラムの「#kohjifukunagaworks」や「♯味噌汁のためのスパイスの勉強」などハッシュタグで検索すると、彼の「図案家」ぶりを詳しく知ることができる。今回、目を引く作品は二種類のScholar展のフライヤーであろう。デザインがほぼ同じフライヤーだが、一つは横縞でScholarの文字が印刷されているブルーのフライヤー、もうひとつは縦縞でオレンジピンクのScholarが印刷されているフライヤーである。この縞、ボーダーには京都・東福寺の龍吟庵の南庭、そして同じく京都・龍安寺の方丈庭園の砂紋がモチーフにされているという。作品の上にボーダーを重ねることで、一日のうつろいを表し、その時々に見え隠れしている情景を作り出す。移り変わる背景や意識がクロスされ、人や社会が変化することを意味する。このように「アート」として、フクナガのビジュアルデザインを楽しむことができる。

フクナガコウジ、フライヤーデザイン1

フクナガコウジ会場風景(フライヤーデザイン2)(Photo by Junji Kumano)

水野美加、Mika Mizunoは千葉県生まれ、藤沢市在住。2012年にフィンランドでアーティストインレジデンスを体験、2013年にロンドン大学ゴールドスミスカレッジMFA取得。映像やインスタレーションを取り入れた写真表現を探求している。Scholar展の展示室の一室には、独特な静かな雰囲気に包まれた空間がある。展示室の正面には大きなスクリーンがあり、白黒の映像《A Midday Rest》が映し出される。そして周りには、クマの置物、木の棒や付箋などのインスタレーションが展示されている。水野はこれらを用いて日常にひそむ現実と想像の境界を表現する。

水野美加会場風景(Photo by Junji Kumano)

藤沢市アートスペースのScholar展では、一般の展覧会と同様、触れたり、飲食したりすることは禁止だが、嬉しいのは写真撮影がOKな点だ。いろいろな角度からじっくり考える意味でも、作品を一つひとつ鑑賞し、魅力を感じ写真を撮ることも意義深い体験となる。そして、再度、撮影した写真を観たり、目録を読んだりして、異なる角度から鑑賞する行為もまた「学者scholar」としての一端を担うことができるのだ。

ガブリエル・デルポンテ会場風景(撮影:筆者)

河本蓮大朗《Weaving#30》展示風景(撮影:筆者)

河本蓮大朗《Weaving#30》(部分)(撮影:筆者)




(執筆:柴崎由良)



参考資料


・Scholar展フライヤー、目録、ポスター
・Bridge me Japan http://www.bridgemejapan.com/
・藤沢市アートスペース http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/bunka/FAS/
・Gabriel Delponte website http://www.gabrieldelponte.com/
・大崎清夏 ウェブサイト https://osakisayaka.wordpress.com/
・河本蓮大朗 ウェブサイト https://www.rentarokawamoto.com/
・フクナガコウジ ウェブサイト http://kohjifukunaga.tumblr.com/
・水野美加 ウェブサイト http://mikamizuno.com/

参照展覧会


企画展Ⅱ 姉妹友好都市間文化交流事業 -ガブリエル・デルポンテと湘南ゆかりのアーティストたち-「Scholar」
会期:2018年7月7(土)日-8月26日(日)
会場:藤沢市アートスペース(神奈川県藤沢市辻堂神台2-2-2 ココテラス湘南6階)
詳細:公式サイト(http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/bunka/FAS/exhibition/ex018/) を参照のこと。
最終更新 2018年 8月 10日
 

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