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鈴木ヒラク:交通
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2018年 4月 26日

Constellation #19 / 2017 / キャンバスにシルバーインク、土、アクリル、墨汁 / h270×w1100 cm / アーツ前橋蔵 / 撮影:神宮巨樹

    鈴木ヒラクは1978年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科修了。”描く”と”書く”の間を主題に、平面・壁画・パフォーマンス・彫刻など多岐にわたる制作を展開し、国内外で精力的に展示に参加。時間と空間におけるドローイングの可能性を探求し続けている。2011年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)の助成によりアメリカ滞在、2012年にポーラ美術振興財団の助成によりドイツ滞在。音楽家や詩人、人類学者らとのセッションによるライブパフォーマンスも数多く行う他、アニエス・ベーやコム・デ・ギャルソンとのコラボレーションも手がけるなど、領域横断的な活動でも知られる。2016年よりドローイングの実践と研究のためのプラットフォーム「Drawing Tube」を主宰。著書に『GENGA』(河出書房新社、2010年)などがある。

    このたびのアートフロントでの個展では、昨年の芸術祭「いちはらアート×ミックス」で発表した”道路”の続きとして、”交通”をテーマに掲げ、キャンバスやパネルという単位ではなくより空間的な作品として、時空間に新たな回路を開通させることを探求する。

    また、近年取り組んでいるドローイングシリーズ『Constellation』からも新作を含めた4点程度が出展される予定。

    鈴木は日本人には数少ないドローイングをその作品の中心とする作家である。しかしその定義は柔軟で拡張性を持ち、我々の認識における従来のドローイングの領域にとどまることなく常に新たな領域へと挑戦を続けている。彼の興味は幅広い制作物に見て取れるが、中でも音楽やストリート文化、及び考古学や人類学に対して強い関心を持つようだ。

    紙やキャンバスに描かれた作品だけでなく、枯葉の葉脈や反射板など路上で見出した素材を用いた作品、彫刻、壁画、映像、パフォーマンスなど、実に様々な表現媒体がある。しかしそのすべてのドローイングに共通して見えるのは、緻密にコントロールされた線による表現であり、その記号的な痕跡である。その時々の環境や感情によって異なるかもしれないが、日常風景の中で発見した何かをきっかけとし、その断片や現象自体を、線を引くことを通して記号化する。言い替えれば当たり前に見える日常から、未知なる線を発掘しているのである。それを時には幼少からの興味の対象であった遺跡や発掘物のような形態に置き換え、言葉になる前の記憶に触れようと試みる。それが鈴木ヒラクのドローイングでは無いだろうか。この様に考えると初期の葉脈を使ったドローイングや近作のシリーズの背景に土を用いることも納得のいく行為である。一方、彼のドローイングが単なる身体表現ではなく、その本質が記号化するということにあるという場合には言語の領域にも関連づいてくる。

    『Constellation』シリーズなどの鈴木の近作を目の当たりにすると、黒い背景にシルバーでかかれた無数の点と線が天体の軌跡のように浮かびあがり宇宙のような印象を受ける。それらは良く見ると一つ一つが何らかの規則性を持って並んでいるようにも見え文章のようにも見て取れる。作家はこれまで書くことと描くことの間のような作品を多く展開してきたが、それはこの作家にとって”かく”ということが、本質的で原初的な行動であるという考えからきている。つまり、”かく”という行為は、描く=”draw”や、書く(wtite)の語源である古英語”writan”に表わされるように、先の尖った何かを引きずって跡をつけるという行為であり、”描く”ことも”書く”ことも、ひとつの身振りだという解釈である。

    鈴木の制作は、現在では言葉の定義により細分化されてしまった”かく”ことの源流へと向かう道すがら、もうひとつ別の辞書を編もうとするようなものではないだろうか。

    今回のアートフロントでの展示から空間という概念を加え新たに始まる鈴木の旅はどのように発展していくのか、新たな挑戦を記す1ページ目に是非注目したい。

http://artfrontgallery.com/

全文提供:アートフロントギャラリー


会期:2018年4月27日(金) 〜 2018年5月27日(日)
時間:11:00-19:00
休日:月曜および5月3-5日休廊
会場:アートフロントギャラリー

最終更新 2018年 4月 27日
 

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