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根本裕子:陶 幻視のいきもの
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 10月 11日

≪イムヌスの為の出演者-1≫2009年|400×500×300mm|撮影:姜哲奎|画像提供:INAXガレリアセラミカ copyright(c) Yuko NEMOTO

根本裕子の作品は、陶でつくられた想像上の動物たちが、不気味でユーモラスな独特の風景をつくり出すインスタレーションです。 幻の動物たちは1mほどの大きさで、薄っすらと滑るような淡褐色の弛んだ肌合いをして、犬や豚やトカゲが混じったような不思議な体型で四本足のようです。顔はトドや犀のようなイメージですが、黒い瞳が見開かれ、どこか哀愁を帯びています。口から覗くとぽっかりとした暗闇が尻尾まで開いているのが見えます。生きものなのに、その洞窟のような空虚さに思わずどきっとします。

近未来のミュータントのような動物たちは、ひととき命を繋いでいるだけの寄る辺無さを漂わせ、どこか別の存在に支配されているような不安を感じさせます。その独創的な表現は秀逸で迫力があります。

根本は今年大学院を終了したばかりの若手作家です。大学から陶芸を始めて6年目。陶芸技法を身に付ける月日の後、修了制作で初めて今展のような作品をつくりました。手びねりで土を積み上げてつくっていた壺が、有機的なフォルムを見せるようになり、120cmもの高さになった時、イメージとして動物の足となり動き始めたのだと話します。

また、大きな口から手を差し入れて壺の内側をつくっている時に、流していた音楽が反響して耳に届き、その心地よさに音を感じさせるような作品をつくりたいと考えました。

今展の作品のタイトルは「イムヌスー王の隊列はすすみ」というものです。「イムヌス」はグレゴリオ聖歌の一種で、その歌詞に「動物たちがヨタヨタと進む」という件があり、根本はその偶然の一致からこのタイトルを選んでいます。

会場に鳴り響く、聞こえない賛歌。それに合わせて歌う根本の不思議な動物たち。今展は東京での初め個展となります。その世界をぜひ会場でご覧下さい。

根本裕子プロフィール
1984 福島県に生まれる。
2007 東北芸術工科大学工芸科陶芸専攻卒業
2009 同大学大学院工芸領域陶芸専攻修了

主な展示:
2007 「温土℃」SPACE/ANNEX ・東京、「窖~あながま~」大沼本店ギャラリー・山形
2008 「桜梅桃李」蔵、ダイマスギャラリー・山形、「中日韓現代陶芸新世代交流展] 中国広東石湾陶磁博物館・中国

全文提供: INAXガレリアセラミカ

最終更新 2009年 10月 07日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


会場の床から芳名台に至るまで置かれている根本の作品は、非常な驚きをもって鑑賞者を迎え撃つ。動物とはたして言うことができるのか、根本が焼き上げるのは体の所々が不自然に変型した動物らしきものにほかならない。ある犬らしきものはしかし手足が異常に長く、兎のような耳を持つものは後ろ足がくっ付いてしまっている。でこぼことした体つきのものもいれば、口の部分がぽっかり空いてしまっているものもいる。 陶器であるがゆえの見た目の硬質さがその異常さに拍車をかけており、一見すればユーモアのあるそれらのいきものは、見れば見るほど恐ろしい。十文字美信が最近発表した人間の顔が変型してい≪FACES≫のシリーズや、フランシス・ベーコンの顔や体全体が変型している一連のペインティング、あるいはより古くはジュゼッペ・アルチンボルドの≪四季≫のシリーズや歌川国芳の寄せ絵の作品にも通じるが、普段見知っているものが変型されているがゆえのギャップは、まったく新しいイメージの創造よりも私たちに与える驚きの度合いが遥かに大きいのかもしれない。


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