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福原寛重 ”Modulation”
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2016年 11月 21日

"Mythology #4,2015" Lambda Print, with Frame 500 x 308 mm (19.7 x 12.1 inch)

このたびAI KOWADA GALLERYでは福原寛重個展、"Modulation"を開催いたします。Modulation(変調、転調)と題される展示は、'10年の"Binary"(二進法、二成分)、'12年の"Recursion"(再帰、帰納)、'13年の"Instantiation"(インスタンス化、具体化)に続く四回目の個展となります。

展示されるのは初個展より福原が取り組んで来た技法による作品、ジェッソで黒塗りした背景に一切下書きなしの均一な鉛筆の線で跳躍する馬、葉や花の形象を描き出した幅2Mを超える絵画作品です。遠目にはただの黒い画面に見えますが、間近で見るとそれら動植物の姿がダイナミックに浮かび上がります。黒の地に鉛筆というシンプルな制作ゆえに、画面と鑑賞者の距離やどのような光の下で観るかという環境設定に左右されてイメージはさまざまに表情を変えるのです。この独特のフレキシブルな絵画空間は福原のシグネチャースタイルであり、これまで多くのコレクターを魅了してきました。

また、同絵画とともに出品されるのが新作、"Mythology”シリーズ。福原自身の写真作品、3DCGも含まれるきわめて膨大で多様なデータソースから収集された断片的イメージを継ぎ合わせて架空の風景を創造しています。神話と名付けられたそのモノクロームな作品群に見出されるのは切り立つ岩山や繁茂する植生、しぶきを立てて落ちる滝など、粗削りな無人の自然空間。それらはロマン主義の雄大で孤高な風景画を連想させる一方、昔の映画セットの様なチープさを漂わせています。

"Mythology”シリーズはいわゆるコラージュ技法で制作されますが作者は「一般にコラージュという手法は素材感の異なるパーツを組み合わせることで素材感の差やニュアンスを生み出す面白さを表現に活用するものですが、私の場合はそれとは違い、異なる素材であることの見分けがつかないようにコラージュとレタッチを繰り返します。」と述べます。

コラージュ空間にスムーズな連続性を構築するには、構成要素が無彩色に限られているのは有利に働きます。ここでは盆栽の画像の一部が大木の幹に使われ、排水のしぶきが滝つぼを表現するなど、画像素材の本来の素性や大きさなどと無関係な転用が繰り返され、本来は互いに無縁だった無数の要素は根無し草よろしく福原の画面に移植され、共生的に新しい生態系を作るのです。とはいえ、出所の異なる素材を紡いだこれらイメージはデジタル技術を駆使したコラージュとはいえ、矛盾に満ちているはず。鑑賞する我々の眼はそうしたミクロの矛盾を潜在的に読み取ってしまうために"Mythology"の表現世界にある種の偽物めいたチープさを感じ取るのかもしれません。

ピカソやブラックなどの紙によるコラージュが、エレメンツ間の「不連続性」をあからさまにすることで意味ある空間を形成する一方、デジタル媒体のコラージュで構成される福原のそれはコラージュの特性である不連続性が秘匿し抑圧されています。"Mythology"シリーズは抑圧された「不連続性」を潜在的に際立たせる手法を取っているとも理解できます。

色彩の饒舌を廃した抑制的な無彩色の世界。しかし逆にそれと対立するように水面下では、素性の知れぬ寄せ集めの素材たちが自らの素性を暴露し合っているのです。その主張の響き合いこそがMythologyの空間を非凡なもの、世界そのものであるような生き生きとしたものとするのではないでしょうか。

このように観る者の視覚にさまざまに挑む福原の制作は、われわれにとって見逃せない刺激的な世界を開き続けているのです。


福原寛重

1975年大阪生まれ。東京在住。
大阪芸術大学在学中の97年に、第1回フィリップモリスアートアワードファイナルセレクションに選出。また2001年にニューヨーク P.S.1MoMAで行われたグループ展にも参加し、注目を集めました。その後作家活動を休止しますが、2008年より制作活動を再開。2010年よりニューヨークやマイアミのアートフェアに出展、その様子はニューヨークタイムズ誌に掲載され、即日完売するなど好評を博しました。

http://aikowadagallery.org/ja/aikowadagallery/exhibition/

全文提供:AI KOWADA GALLERY


会期:2016年12月17日(土) 〜 2016年12月25日(日)
時間:14:00-18:00  *12/26(月)以降も事前アポイントメントにてご覧いただけます。
休日:なし
会場:AI KOWADA GALLERY

最終更新 2016年 12月 17日
 

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