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田名網敬一:壺中天
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 9月 24日

画像提供:ナンヅカアンダーグラウンド copyright(c) Keiichi TANAAMI

本展は、田名網が、中国の後漢書に伝わる故事に着想を得て描きあげた新作ペインティング約10点からなる予定です。 田名網敬一は、1936年東京に生まれ、武蔵野美術大学を卒業。1960年代より、グラフィックデザイナーとして、イラストレーターとして、そしてアーティストとして、メディアやジャンルに捕われず、むしろその境界を横断して精力的な創作活動を続けてき唯一無二のアーティストです。田名網は、在学中より、日本の戦後芸術運動の一つであるネオダダの中心的メンバーであった篠原有司男や三木富雄らと行動を共にし、卒業後の60年代半ば以降は、サイケデリックカルチャーやポップアートの洗礼を受け、映像作品からシルクスクリーン作品、ペインティングから立体作品と幅広い創作活動を続けて参りました。特に、60年代後半のアンディウォーホルとの出会いに触発され、現在に至るまでウォーホルの残した「アートとデザイン」、「アートと商品」、「日常と美の関係」といった今日の現代美術が抱える主要な問題に対して実験的な挑戦を試み続けています。

今回、田名網が、その新作のテーマとして取り上げた「壺中天」とは、その語の通り「壺の中にも天(満天の世界)有り」という中国の故事で、俗世間の中で生活していても、自分だけの世界を持ち、それを深めることの大切さを説いた言葉です。田名網は、壺の中に広がる唯我独尊の小宇宙というコンセプトに強いインスピレーションを感じ、自らの思い描く理想郷を描き上げました。ここに登場する世界は、田名網がその長き創作活動の中で影響を受けてきた、ピカソ、ウォーホル、リキテンシュタイン、キリコ、エッシャー、河鍋暁斎、赤塚不二夫といった様々なアーティストたちの作品と、田名網独自のキャラクターである異形の金魚や少女、怪物たちといったモチーフが同居しています。同時に、ここには田名網が過去に乗り越えてきた戦争や病といった体験を連想させる光線や爆発、螺旋の松といた要素も多分に盛り込まれています。田名網は自らの戦争体験について「あれは現実に起こったことなのか。私の記憶では夢と現実がゴッチャになって、曖昧なまま記憶されている」と語っていますが、ここに出展される作品たちは、まさしく戦争体験や生死を彷徨った病といった極限の人生経験を経た田名網が、その脳内に描いた究極の極楽浄土と言えるでしょう。

「私の最近描いている絵にエロスとは無縁のひょうたんが登場する。中国の故事に想を得た「壺中天」の世界を絵にしているからである。漢の時代、売薬商の老人壺翁は、実は仙人で、夜になるとひょうたん形の壺の中に跳び込む。内部はめも眩むほどの壮麗な仙宮世界が広がり、無数の楼閣がそびえたつ。ちっぽけな壺の中に宇宙をまるごと封じ込めた仙境が開けているのである。仙境は時空を超えた桃源郷であり、究極の理想郷でもある。」- 田名網敬一

全文提供: ナンヅカアンダーグラウンド

最終更新 2009年 11月 07日
 

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