異界へと通じる「瀬戸内国際芸術祭 2016」・夏の行路――宮浦ギャラリー六区の丹羽良徳とドンドロ浜商店のパトリック・ツァイ |
レビュー |
執筆: F.アツミ |
公開日: 2016年 8月 05日 |
宝石のように海に散りばめられた光の照り返しに包まれて、宇野港から直島へのフェリーで瀬戸内国際芸術祭 2016 夏を訪れた。第3回目となる今回の芸術祭では、春・夏・秋の3期に分かれて、国内外から200を超える作品が瀬戸内の島々を彩ることになる。 夏会期(7月18日~9月4日)でもっとも注目を集める作品の一つはおそらく、宮浦ギャラリー六区で開催中の丹羽良徳による《歴代町長に現町長を表敬訪問してもらう》ではないだろうか。瀬戸内国際芸術祭の枢要な舞台となる直島の現町長に、丹羽良徳が全国各地の霊媒師に歴代町長を召喚させ、表敬訪問してもらうというものだ。公人である直島の現町長が土俗的な儀式に相見えるという舞台設定は、近代的な政治システムの基盤となる政教分離の原則の下で生きる私たちに少なくない混乱をもたらすものとなるだろう。 直島を後にして豊島を訪れることがあれば、パトリック・ツァイの写真展「潜水球 ―BARNACLE ISLAND―」(自主企画)の会場の一つとなるドンドロ浜商店というカフェに行くのもよいかもしれない。台湾系アメリカ人である写真家が小豆島に移住してから最初の一年間を写したイメージからなる写真展は、海岸に捨てられたトイプードルを拾ってともに生活することから始まる。島の子どもたちのあどけなくも力のこもった表情をとおして、一人の写真家の新しい生活に賭ける意志と希望を読みとることができる。本写真展を収める小さな写真集が「その船にのって」より出版されているが、イラストは全国各地を仮設の家を背負って旅するアーティスト、村上 慧によるものだという。 もしあなたが何かの事情で「ここではないどこか」を探し求めているなら、瀬戸内国際芸術祭 2016の夏会期に、宮浦ギャラリー六区の丹羽良徳とドンドロ浜商店のパトリック・ツァイを訪れてみるといい。どちらの作品も「いま・ここ」があることのあたたかさと切なさをもって、異界へと通じる行路を指し示してくれるだろうから。 執筆者情報 F.アツミ:Art-Phil.編集/批評.“アート発のカルチャー誌”としてブックレット「Repli(ルプリ)」の発行を中心に活動.アート,哲学,社会の視点から,多様なコミュニケーション一般のあり方を探求している.URL art-phil.com 参照展覧会 『瀬戸内国際芸術祭2016』 春会期: 2016年3月20日(日・春分の日)~4月17日(日) 夏会期: 2016年7月18日(月・海の日)~9月4日(日) 秋会期: 2016年10月8日(土)~11月6日(日) 開催地: 直島 / 豊島 / 女木島 / 男木島 / 小豆島 / 大島 / 犬島 / 沙弥島(春のみ) / 本島(秋のみ) / 高見島(秋のみ) / 粟島(秋のみ) / 伊吹島(秋のみ) / 高松港・宇野港周辺 参考サイト: http://setouchi-artfest.jp/
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最終更新 2019年 10月 21日 |