| EN |

池田謙 原風景ーKAFOU
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2016年 8月 05日

池田謙 Instrumental Drawing (Sound Print), 2016

eitoeikoでは8月19日(金)より9月3日(土)まで、ロンドン在住の音楽家池田謙による展覧会「原風景-KAFOU」を開催いたします。キュレーションはイン ディペンデント・キュレーターの飯田高誉。国内では12年ぶりの個展となる本展 では、明治から昭和の時代を生きた文学者、永井荷風(1879-1959)の著した『断腸亭日乗』を切り口に、池田の紡ぐ音色、あるいは空気の振動の連なりを音響的、 視覚的に展開していきます。また本展にあわせて制作した写真家鈴木心とのコラボレーション作品を発表します。関東大震災に罹災し、開戦から敗戦の体験をつづった荷風の眼は、現代をどのように眺めているのでしょうか。皆様のご高覧をお待ちしております。


自らの疎外に光をあてるということ

池田謙(Ken Ikeda)の音楽作品は、絶え間ない変化や線的連続性をもった距離の 測定器ではない。池田の音は、時間連続体において自律性を保ちヒエラルキーを形 成しない。原子化された音の塊として隣り合わせの音との相互浸透によって辛うじて成立している。それはあたかも江戸文化の日常的精神性を表象し続けた日本の文 学者永井荷風の散歩のようだ。「夜十時過家を出づ。梅雨深夜の街のさまを愛すれば なり。雨の降りざまさして烈しからず、風吹かず、雲の行き来につれて雨歇(や)む時月を見るといふやうなる夜は、傘もささず空想に耽りて歩むによきものなり」(昭 和12年6月27日『断腸亭日乗』)。街の風景の中に自ら融け込ませ、陋巷の散歩者として「風景の発見者」であった永井荷風と作品を一回限りの反復不可能な出来事 に変容させていく「音の発見者」の池田謙は、どこかで通底している。今回の展覧会「原 風景 KAFOU」では、もうひとりの陋巷の散歩者であり、池田謙にとって重要な伴 奏者でもある写真家鈴木心の存在が展覧会を成立させている。荷風曰く「(関東大) 震災後、銀座は急に賑やかになった。古い江戸は打倒された。江戸っ子は壊滅した」。 震災後の銀座が合理主義のアメリカ文化の影響を受け、東京の盛り場が浅草から銀座へ移ったのだ。鈴木心の生まれた場所で起こった、2011年3月11日午後2時46分は、消し得ない記憶として彼の日乗の底流に潜んでいる。しかし、彼は再び日 乗を撮り続けていく。今回出品されている鈴木の写真作品は、その震災後の数ヶ月 後に撮られたものであった。再び街の風景の中に自らを融け込ませ、日乗によって 快復再生されるなにかを求めてシャッターを切り続ける。日乗には常に生と死が隣 り合わせに潜んでいる。だから「断腸亭日乗」なのだ。永井荷風、池田謙、鈴木心 の日乗空間、もうそこには弁証法的主体などとは無縁な世界が顕れては消える。

飯田高誉(Takayo IIDA)インディペンデント・キュレーター


出品作家プロフィール

池田謙(いけだ・けん) 1964年東京生まれ。バークレー音楽院に学ぶ。ロンドンを拠点に活動する作曲家、演 奏家。創作楽器のアコースティックノイズとDX7のサイン波によって、プリミティヴ で独特な"電子音楽"を構築している。これまでに杉本博司、森万里子、青山悟、横尾忠則、 デビッド・リンチ等のヴィデオ作品や展示に楽曲を提供したほか、 ロンドンでは John Russell,Eddie Prevost,David Toop,Paul G. Smith, 等のフリーインプロヴァイザーと共演する。主な参加展覧会に「欲望の砂漠」(スパイラル 1994)、「デヴィッド・リ ンチ ーDREAMS」(パルコギャラリー 1998 音楽担当)、「PICTURES」( SCAI THE BATHHOUSE 1999)、「 Sonic Boom: The Art of Sound」(ヘイワードギャラリー 2000)、「BEHIND THE SCENES」( SCAI THE BATHHOUSE 2001)、 「Screen Memories」(水戸芸術館現代美術センター 2002)、「Unspecialization」 (SCAI THE BATHHOUSE 2004)、「六本木クロッシング」(森美術館 2004)など。
音楽家としては世界各地での公演のほか、英Touch からリリースしたファースト・アルバム「Tzuki」(2000)は、 ほぼDX7 のみでサイン波を哀愁たっぷりに奏でた名作として話題になる。セカンド「Merge」(2003)を同レーベルからリリースし、サードアルバム「The Mist on the Window」(2007)、4th「Kosame」(2010)をSPEKKからリリース。そして2016年、6年ぶりに待望のフルアルバム「Primal Scene」をSADよりリリースする。

鈴木心(すずき・しん) 1980年福島生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。企業の広告写真や映像制作に携わる傍ら自身の作品制作発表を継続的に行なっている。写真集『写真』(BOOK PEAK、2008)を出版、10万枚以上の写真を自由にダウンロードできる自身のウェブサイト、年30回を超える写真ワークショップと学校での授業、6000名 以上の個人肖像写真を撮影する鈴木心写真館の活動を行なっている。

池田謙「原風景-KAFOU」
2016年8月19日(金)~9月3日(土)
オープニングレセプション: 8月19日(金) 19時~21時
ライブパフォーマンス:8月27日(土)16時開場 16時30分開演 料金2,000円
ゲストミュージシャン:秋山徹次 畠山地平 川口貴大

eitoeiko(エイトエイコ)
〒162-0805東京都新宿区矢来町32-2
03-6873-3830
http://eitoeiko.com
開廊12時から19時 日月祝休廊

http://eitoeiko.com

全文提供:eitoeiko


会期:2016年8月19日(金) 〜 2016年9月3日(土)
時間:12:00-19:00
休日:日月祝
会場:eitoeiko

最終更新 2016年 8月 19日
 

関連情報


| EN |