| EN |

Stitch by Stitch:針と糸で描くわたし
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 9月 21日

村山留里子≪マント≫(写真は部分)2009年|ベルベット、化繊、プラスチック、その他|フォーエバー現代美術館蔵|Photo: 木奥惠三| Courtesy of YAMAMOTO GENDAI|Copyright © Hiroki YAMAMOTO

タイトルにある「Stitch(ステッチ)」とは、「針を運ぶこと」という意味です。この言葉から、あなたは何を思い浮かべますか?

多くの人が想像するのは、手芸やニードルアート、もしくは伝統的な刺繍工芸や民族衣装を彩る刺繍などでしょう。本展で展示される作品は、ともすればそうした共通理解を裏切るものかもしれません。

ここで紹介する作家たちは、時間や記憶を定着させたり、自己の内面をえぐりだしたり、油絵やドローイングとは異なる描線を得たりするために、針と糸を表現の媒体としています。「Stitch」は、作家が自身を表現するために一針ごとに行う決断の集積です。そしてそれは、誰にも身近な素材によって作られているからこそ、感触や制作に費やされた時間の長さなどを身体感覚として理解でき、表現に対する新鮮な驚きや、見ることの喜びをもたらします。

本展の舞台となるのは、個人の邸宅として建てられた庭園美術館。異なる表情を持つ展示室に、それぞれの作家が独自の作品世界を織り出すインスタレーションにもご期待ください。

全文提供: 東京都庭園美術館

最終更新 2009年 7月 18日
 

編集部ノート    執筆:小金沢智


「刺繍」を取り扱う「現代美術」の展覧会ということで試み自体は新しいが、しかし作品自体が訴えかけるものが希薄でただジャンル横断的な愉悦にのみ留まっている。唯一瞠目したのが奥村綱雄による≪夜警の刺繍≫だ。作家が夜警の勤務中に作り出した刺繍作品とその場面を写した写真に加え、その下に勤務中の制服や手帖、時計、さしかけの刺繍など現場の様相を伺わせるものがまとめてある。刺繍作品の大きさは文庫本を開いた程度と大きくないが、「stitch」(針を運ぶこと)の執拗な反復作業によって作られた布の表面は見るものを圧倒させるに十分だった。「現代美術」と呼ばれようが「刺繍」と呼ばれようが、優れた作品はそのような他者からの名付けを越境して鑑賞者の眼を見開かせるという好例である。


関連情報


| EN |