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篠原 愛:chimera
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2014年 4月 18日

"Plaything" 2013年 Oil on cotton cloth and panel 53.5 x 94.0cm  ©Ai Shinohara

このたびGALLERY MoMo Ryogokuでは5月10日(土)から5月31日(土)まで、篠原愛の個展「chimera」を開催いたします。篠原愛は1984年鹿児島県生まれ、2007年多摩美術大学卒業、私たちのギャラリーでは2011年以来3年振り3度目の個展になります。

初期作品から前回の個展まで、少女や動物の切り裂かれた腹部から内臓が飛び出し植物が芽生えるなど、グロテスクと美しさを共存させる作品を制作し、女性の持つ繊細な内面性を画面に描き出し、時に自虐的な印象も持たれてきましたが、根源的には生への慈しみと希望を内包させ、死よりも生への強い意志を感じさせました。

近作ではそうしたグロテスクな面が抑えられ、次第に人魚へと変身する少女が描かれるなど、メタモルフォーゼをテーマとした方向に展開しつつあるように見られますが、描かれる少女の状況は必ずしも自己の意思によるものでなく、現代にあって良くも悪くも外的な要素に支配されて生きざるを得ない中、それをあえて受け入れながら生き抜く強さと美しさを描いています。

今展でも迷いのない確たる技術に裏付けられた線描によるドローイング数点と、卓越した技術と繊細な描写による油彩作品約5点を両国のスペースにゆったりと展示致します。油彩1点に掛ける時間は昼夜に渡り途方もないものですが、描かれた内容と共にその筆致も合わせてご高覧いただければさいわいです。

[作家コメント]
今回の展示作品は「chimera(キメラ)」という言葉に着想を得て、イメージを広げ制作した。キメラとは、神話に登場する頭はライオン、胴はヤギ、尾は蛇で火を噴く怪獣で、異なる遺伝子情報を持つ組織からなる生物などを指し、そこから「実現しそうもない考え、希望」を意味する。
ひとつの個体として存在していた少女が、異種の生物と有無をいわさず掛合され、その結果生まれた奇妙な生物を描こうと思った。
少女と融合する生物、また作中に登場する生き物として魚を選んだ理由は、以前から「見栄えするよう品種改良を繰り返された観賞魚は、美しい着物や化粧を施し身なりを整えた女性と類似する」というイメージがあったからだ。また、魚の表面を覆う鱗を一枚一枚反復して描くことにより生まれる連続性で、平凡ながらも繰り返し永遠に続く(ように思われる)日日を示すことができる。その積み重ねにより産み出される尊い美しさを表現したかった。
雄雌二匹の魚が二重らせん状に描かれた構図は、生物の設計図であるDNAの構造モデルがモチーフになっている。すべての生物が共通のしくみででき上がっていること。それはその先にある胎児が人間であれ魚であれ、発生の初期段階は同じような形をしているところにも共通している。
人間は誰しも幼い頃は純粋無垢な生き物だが、成長過程の中で、他人や環境など外からの影響(親などの庇護下にあるときのそれは、自分の意思では選択できないものがほとんどだ)をうけ、身もこころも変容してゆく。
自分は全く望まない環境の変化や事件でも、正面から飛んでくるものは避けようがない。とにかく受け止めて対処し、ボロボロになり、気が付いたら自分の考え方や顔つきが、全く別の生物のように変わっていたりする。
このように書くと画面の中の少女たちは、己の意思に関係なく悲惨な目にあった被害者のイメージだが、決してそうではない。彼女たちは与えられた状況、自分の身体の変化を素直に受け入れ、泳ぎ回り、水中の魚と戯れ、手遊びをして、時に空想にふけり、生活を楽しんでいる。 
「理不尽な目にあっても、深刻に悩んだりせず、よい方向に、気楽に考える」多くの人が社会で揉まれながら学び、身に着けてゆく思考の護身術。これが身につかなければ、あまりの苦しさゆえにのたうちまわり、生活どころではなくなってしまうのではないか。「目が覚めたらいつの間にか身体の半分が魚になっていて驚いたけど、だったら逆にこの状況を楽しんじゃおう」という、自己肯定の強さから派生する楽観思考の少女を描きたかった。

2014 年 篠原愛

[作家プロフィール]
篠原 愛

1984 鹿児島県生まれ
2007 多摩美術大学絵画学科油画専攻卒

[個展]
2007 ギャラリーQ (東京)08’
2008 Mehr Gallery(ニューヨーク)
2009 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
2011 GALLERY MoMo Roppongi (東京)

[グループ展]
2008 「三人展」 Mehr Gallery(ニューヨーク)
2009 「第28回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」損保ジャパン東郷青児美術館(東京)
―― 「Summer Group Show Hop Step Jump」GALLERY MoMo Roppongi ( 東京)
2011 「再生‐regenerate-」GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
―― 「I氏コレクション展」高崎市美術館(群馬)
2012 「時代の精神性」 GALLERY MoMo Roppongi (東京)
―― 「石黒賢一郎・篠原 愛・須田悦弘 展」 GALLERY小暮 (東京)
2013 「Individual Creations」 GALLERY MoMo Ryogoku (東京)
―― 「大絵画展」西武渋谷店(東京)

オープニングレセプション:2014年5月10日(土)  18:00 - 20:00

全文提供:ギャラリーモモ両国


会期:2014年5月10日(土)~2014年5月31日(土)
時間:11:00 - 19:00
休日:日・月曜、祝日
会場:ギャラリーモモ両国

最終更新 2014年 5月 10日
 

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