| EN |

ACG eyes 6 : 吉岡千尋、宮田雪乃、笠間弥路 ― 二次元地層学
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2014年 4月 17日

左)吉岡千尋《なみのりアルバ 3》2013|上)宮田雪乃《black lake #1,#2》2013|下)笠間弥路《光》ほか 2012

"ACG eyes"は、アートコートギャラリーが注目する若手作家を紹介する展覧会です。今回は、吉岡千尋、宮田雪乃、笠間弥路の3作家がそれぞれ最新作を発表します。
絵画、版画、古紙への刺繍―。それぞれ異なる技法とアプローチで展開される、多様な平面表現の試み。重なりを蓄え空間性を孕む地層図のような、三者三様の物語を是非ご高覧ください。

吉岡千尋は、一編の詩を想起させるモチーフを、金属粉や顔料を定着させた下地にグリッドを引き、時にはパズルのように組み替え再構築しながら描き写していきます。素描のような筆致によって、描かれるイメージの全体としての印象は徐々に密度を和らげ、大きな世界の一部を切り取って見ているかのような、画面の外にその続きが存在しているかような空間の広がりを感じさせます。画面の余白は影の形象であり、モチーフ固有の造形や佇まいをより際立たせると同時に、その鈍く静かな輝きは鏡や水面に似た役割を果たし、鑑賞者の視線を作品の内界に引き込むのみではなく現実空間へと緩やかに押し返します。
吉岡はしばしば、同一のモチーフを繰り返し描きますが、それは単なる複製ではなく、自身の内にある詩的な世界を多面体として見せるための謂わば彫塑的な方法として採用されています。本展では、絵筆の太さや筆致のストローク、色彩の明暗などの差異によってイメージの空間認識を変化させる試みに挑戦します。

宮田雪乃は、幼い頃から想像を重ね心の中に築いている「理想の町」の出来事として、現実世界の不穏な事件を登場させ、そのワンシーンをドライポイントの手法で切り取ります。理想の町ではネガティブな要素は削ぎ落とされ、暴力的なモチーフが底抜けに明るい色や愛らしい形象に姿を変え、現実は「ねじれ」ながら楽しげな世界へと転換されてゆきます。また、宮田の作品はネガティブで感情的な衝動からスタートしますが、刷り上がる作品のイメージは、版画特有の制作過程(一度それぞれの色や形に分解された後に、再び刷り重ねられる行程)を進めるごとに冷静で淡々とした佇まいを獲得してゆきます。そこでは初期衝動における情念の籠ったマチェールは退けられ、描かれたイメージは軽やかに、脆い夢幻のように浮遊します。
宮田はこれまで転換する意味そのものを模索するように、色彩や線のフォルムに至るまで全ての要素を力一杯「ねじって」いましたが、近年、より現実味を帯びた率直な表現に変化してきました。本展では、水を中心的なテーマとした新作群を発表します。

笠間弥路は、空間や時間、記憶など、周囲との関係によって捉えられる事象について、インスタレーションを表現の主軸に探究してきました。本展で展開する刺繍のシリーズでは、古い書籍に空いた「虫食い穴」を基点に考察を深めます。古書と、その紙面を往き来しながら生存の場として空間と時間を共有した虫と、刺繍糸で穴を繕う作家自身。時代・時間、経験・思惑が異なるこれら三者の重なりを、一つの画面の中に繋ぎ止めていきます。
紙面の裏側から漏れる光によって、星空のように輝く虫食い穴。文字列はこの穴によって意味を欠落させ、「図像」へと近づきます。また、平面だった紙面には、向こう側の景色を覗く奥行きが生まれ、二次元から三次元の世界へと拓かれていきます。このように、ある事象と事象とが関係することによって、互いに影響を与え合いながら変化していく状況を、笠間は展示空間へも巧みに仕掛けてゆきます。多様な次元に残る痕跡を辿り繋いでゆくことで、自らをとりまく世界との複雑で豊かな関係性を見つめ直す空間装置の創出を試みます。

[作家プロフィール]
吉岡千尋

1981 京都府生まれ
2004 京都市立芸術大学美術学部美術科油画専攻卒業
2006 京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画修了
|個 展|
2013 「一幕の絵,小説の建築」 アートスペース虹、京都
2012 「skannata」 ART COURT Gallery、大阪
2010 「ガラスのライオン(非在の庭)」 アートスペース虹、京都
2008 「吉岡千尋展」 O ギャラリーeyes、大阪
2007 「吉岡千尋展」 O ギャラリーup,s、東京
「吉岡千尋展」 O ギャラリーeyes、大阪
|主なグループ展|*2010年以降を中心に
2014 「平成26年度境谷小学校作品展」 京都市立境谷小学校 [‘12 ‘13]
「京都府美術工芸新鋭展 ~京都国際現代芸術祭2015への道~」 京都文化博物館、京都<京都新聞社賞>
2013 「カレンダー展」 アートスペース虹、京都 [‘09 ‘11]
「TSCA Rough Consensus 展」 ホテル アンテルーム京都
「京芸 Transmit Program #04 KYOTO STUDIO」 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都
2011 「歌とピクニック in Tamba」 うぐいすの森、兵庫
「gradation」 2kw gallery、大阪
2010 「オープンスタジオuzumasa」 ウズイチstudio、京都
「Art Camp 2010」 Gallery Yamaguchi kunst-bau、大阪
2005 「京展2005」 京都市美術館、京都<市長賞>
|レジデンス|
2011-2012「境谷小レジデンス」 京都市立境谷小学校
|その他|
第28回ホルベイン・スカラシップ奨学生
|パブリックコレクション|
京都市立芸術大学、京都銀行


宮田雪乃
1986 三重県生まれ
2010 京都市立芸術大学美術科版画専攻卒業
2012 京都市立芸術大学大学院美術研究科版画修了
|個 展|
2013 「宮田雪乃個展」 同時代ギャラリー、京都
2012 「宮田雪乃 個展」アートゾーン神楽岡、京都
2011 「宮田雪乃 個展」同時代ギャラリー、京都
2010 「宮田雪乃展」ギャラリーエフェメール、大阪
「宮田雪乃展」番画廊、大阪
|主なグループ展|*2010年以降~
2013 「わたしたちは粒であると同時に波のよう」 @KCUA、京都
2012 「SILENT @KCUA」 @KCUA、京都
「七月あたりの堂東さんと桐月さんと宮田さん」 ギャラリー恵風、京都 [’11]
「STORE JAPAN」 新宿伊勢丹、東京
「京都市立芸術大学作品展」 京都市立芸術大学内/京都市美術館<同窓会賞> [’11<奨励賞>、 ’10<市長賞>]
2011 「ものうみ」 GALLERY SUZUKI、京都
「ARTであしあと」 @KCUA、京都
「PORTE DI STAMPA」 アートゾーン神楽岡、京都 [’10, ‘09]
「閨秀の孫娘」 思文閣会館、京都 [’10]
「全国大学版画展」 町田市立国際版画美術館、東京 [’10 <収蔵賞>,‘09]
2010 「つぎのとなり展」 京都
「中西瑞季×宮田雪乃 二人展」 ギャラリーNIKA、大阪
|主なパフォーマンス|
2008 コンテンポラリーダンスin中之島線「ノリコボウズ」出演 (なにわ橋駅構内、大阪)
2007 コンテンポラリーダンスワークショップ DANCE DAYS vol.2 企画、野外公演「無声の鎮魂歌」企画・出演(大枝地区、京都)
|パブリックコレクション|
京都市立芸術大学芸術資料館、町田市国際版画美術館、京都銀行、エスモードジャポ ン


笠間弥路
1983 宮城県生まれ
2006 多摩美術大学 美術学部 彫刻学科卒業
2007 Ecoles Nationale Supérieur des Beaux Arts de Paris交換留学
2008 京都市立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
|個 展|
2012 「青い鳥は今日も君の肩にとまってる」 GALLERY301、神戸
2011 「屋根の下と、眠る人へ、」 GALLERY301、兵庫
2010 「異空と境界」 GALLERY301、兵庫
2006 「Dear man」 Gallery≠Gallery、東京
2005 PLAT FORM STUDIO、東京
|主なグループ展|*2010年以降~
2014 「宙の土 土の宙 ーそらのつち つちのそらー」 飛鳥アートヴィレッジ、万葉文化館、奈良
2013 「Art Court Frontier 2013 #11」 ARTCOURT Gallery、大阪
「京芸 Transmit Program #04 KYOTO STUDIO」@KCUA、京都
2012 「Les Phénomènes s\'émurent ̶ 一切の事象が蠢きはじめた ̶ 」 @KCUA、京都
2011 「ユートピアのお知らせ」 アキバタマビ21・3331Arts Chiyoda、東京

2014年5月10日[土]
◆アーティストトーク&レセプション : 15:00~17:00


全文提供:アートコートギャラリー
会期:2014年5月10日(土)~2014年5月31日(土)
時間:11:00~19:00(土曜日〜17:00)
休日:日・月
会場:アートコートギャラリー
最終更新 2014年 5月 10日
 

関連情報


| EN |