鉄板を使った超大型のサイト・スペシフィックな作品で知られるリチャード・セラは、言うまでもなく現代美術史において最も重要な彫刻家の一人で、75歳の現在でも積極的に新作の発表を続けています。
1970年代初頭には、彫刻のための習作にとどまらず、空間の知覚や身体との関係性をさぐる別の手法としてのドローイングに取り組み始めました。セラは、インクや木炭では得られない効果を追求した結果、独自に顔料を油脂と蝋でブロック状に成形したペイントスティックを使用し、巨大な平面を黒色の層で塗り固めます。特に近年の作品においては、ペイントスティックに覆われた黒い面は、展示空間のなかでさらに別の空間を構成する素材として洗練、強調され、場を支配する重力にも似た緊張感を与えられています。それぞれのドローイングは、様々に異なるニュアンスのテクスチャを持ち、物質として観る者の身体に迫り、緩く弧を描きながら湾曲する面や直線的なボリュームの構成など、平面作品でありながらセラの彫刻作品を想起させる空間的効果を多分に実現しています。2011 年、2012 年には、これらの平面作品を集めた回顧展『Richard Serra Drawing: A Retrospective』が、メトロポリタン美術館（ニューヨーク）をはじめとする全米３美術館で開催され、大きな注目を浴びました。
1972年以降は、アメリカ・カリフォルニア州にある版画工房で、エッチング作品のシリーズも精力的に制作しています。ドローイング作品にみられる多様なテクスチャの黒い巨大な平面がインクで刷られ、従来のいわゆる凹版画では考えられない重厚な表現に至っています。本展では、そのうち2004 年から2011年までに制作された近作の中から、比較的小型の作品から高さ2メートルを超える大型の作品まで、計5点を展示いたします。
初日の３月８日（土）には、東京のアート月間にあわせ、白金アートコンプレックス全館をあげての催しを予定しております。

［作家プロフィール］
リチャード・セラ
1938年、サンフランシスコに生まれる。1960年代から現在まで、工業素材、特に鉄を使い、作品、場、空間、そして観る者の関係を絶えず問う彫刻作品を制作している。うねるように曲げられた鉄板で構成された、空間を内包するような大型のサイト・スペシフィックなプロジェクトでよく知られ、作品は世界各地で恒久展示されている。1994年、高松宮殿下記念世界文化賞・彫刻部門受賞。2007 年にはゴムやネオンを使った初期の作品から、巨大な鉄の代表作の数々にいたるまでを一同にあつめた大規模な回顧展『Richard Serra Sculpture: Forty Years』がニューヨーク近代美術館において開催され、従来の美術館での展覧会を凌駕するスケールでの展示が話題となった。

【主な個展】
2011 Richard Serra Drawing: A Retrospective、メトロポリタン美術館、ニューヨーク
2008 Richard Serra: Promenade、グラン・パレ、パリ
Richard Serra: Drawings: Work Comes Out of Work、クンストハウス・ブレゲンツ、ブレゲンツ
2007 Richard Serra Sculpture: Forty Years、ニューヨーク近代美術館、ニューヨーク
2004 Richard Serra、国立考古学博物館、ナポリ
1999 Richard Serra、グッゲンハイム美術館、ビルバオ
1997 Richard Serra: Torqued Ellipses、Diaアートセンター、ニューヨーク
1994 Richard Serra、国立現代美術館、ワルシャワ
1992 Richard Serra: Weight and Measure、テート・ギャラリー、ロンドン
Richard Serra: Wall to Wall、ベネッセハウス ミュージアム、香川
1991 Richard Serra: Drei Zeichnungen、シュテーデル美術館、フランクフルト
1986 Richard Serra, Sculpture、ニューヨーク近代美術館、ニューヨーク

【主なグループ展】 ※は版画作品展示
2013 Il Palazzo Enciclopedico、第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ、ヴェネツィア
When Attitude Become Form: Bern 1969/Venice 2013、プラダ財団、ヴェネツィア
2005 Richard Serra and Constantin Brancusi、ピュリッツァー美術館、セントルイス
2000 Topologies, Robert Morris, Richard Serra and Dan Graham、ホイットニー美術館、ニューヨーク
1996 Abstraction in the Twentieth Century: Total Risk, Freedom, Discipline、グッゲンハイム美術館、ニューヨーク
1993 Gravity and Grace: The Changing Condition of Sculpture 1965-1975、ヘイワード・ギャラリー、ロンドン
1989 Geometric Abstraction and Minimalism in America、グッゲンハイム美術館、ニューヨーク
1984 Public and Private: American Prints Today、ブルックリン美術館、ニューヨーク ※
1976 Drawing Now、ニューヨーク近代美術館、ニューヨーク（他5館巡回）
1974 Prints from Gemini G.E.L.、ウォーカー・アート・センター、ミネアポリス（他４館巡回） ※
1972 ドクメンタ5、カッセル
1970 東京ビエンナーレ、東京都美術館（他３館巡回）
1969 When Attitude Becomes Form、クンストハレ・ベルン、ベルン（他２館巡回）

【主なパブリックコレクション】
ダラス美術館、ダラス グッゲンハイム美術館、ニューヨーク／ビルバオ
ニューヨーク近代美術館、ニューヨーク ナショナル・ギャラリー、ワシントンD.C.
テート・ギャラリー、ロンドン ホイットニー美術館、ニューヨーク
ピュリッツァー美術館、セントルイス イエール大学、ニューへイヴン
豊田市美術館、豊田

オープニングレセプション：2014年3月8 日（土） 18：00 - 20：00