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廣瀬智央 展
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 8月 01日

画像提供:板室温泉 大黒屋 copyright(c) Satoshi HIROSE

身近にある素材で我々の様々な感覚に訴えかけるインスタレーションで知られる廣瀬智央(1963生)。イタリア、カラーラ産の大理石を使った作品を展示する。協力:小山登美夫ギャラリー 。

展覧会 Vertumnus (ウェルトゥムヌス) にようこそ。Vertumnus (ウェルトゥムヌス) とは、ローマ神話に出てくる神の名前です。ウェルトゥムヌスは、自由自在にフォルムを変えることができる神で、変化、植物、庭、季節などを象徴しています。私は、このウェルトゥムヌスの特性に、不完全性やはかなさをポジティヴに捉える日本の美学を重ね合わせています。それは、イタリアと日本という地理的に遠く離れた異なる文化にもかかわらず、ある共通的な美学も存在しえるという仮説にもとづいています。展示作品は、現在、イタリアに住み、オリジンは日本という私の立ち位置が反映されています。

作品の構造は、厚さ9cmに切り取ったイタリア、カラーラ産の大理石*の真ん中を周縁から微妙に緩やかに削り込んで、わずかに水がたまるようになっています。花器に近い構造ですが、実際はかなり微妙な構造になっています。ちょうど、コップに水が満たされてもコップから水が落ちないように水が大理石に張り付く表面張力を利用しています。その水の上にキク科の花が浮遊しています。大理石の形は正円ではなく、良く見ると微妙に楕円形になっています。円がルネッサンスのような完全性を象徴するように、楕円はバロックの不完全性を象徴しています。日本の美学的コンテクストである不完全性の美学をそこにだぶらせています。この大理石の作品は、壁面に展示してある豆でできたペインティングとネガポジの関係になっています。水に浮いている花がまるで一つの星のように、壁にかかっている作品を離れて見ると宇宙のように、この大理石の楕円形の中も一つのユニバースです。

風が吹き、空気が動くと水が微かに動き、花も移動します。そのとき初めて、見えない微かな空気の動きが作品を通して知覚できます。つねに変化している今その瞬間です。花は水に浸されていても長くても3週間しか生きられないでしょう。それは、はかなさの象徴です。花、水、大理石はそれぞれが単一に存在するのであれば、ただの物質にすぎません。花が生存するためには、水が必要です。水がとどまるには大理石が必要です。そして、大理石と花が見えない関係性(ここでは知覚しにくい透明な水)で結ばれています。それは、見えない関係性のポテンシャルです。もし花が日本を象徴し、大理石はイタリアを象徴するならば、水は二つの文化間を移動し続けるし僕自身なのかも知れません。
- 廣瀬智央

* カラーラ産の大理石
古くは、ミケランジェロから現在のアーティストたちの彫刻に使用される大理石の一大産地で、世界最高の品質と言われている。日本において木材が非常に身近な素材として捉えられるように、イタリアでは大理石はとても日常的素材として親しまれている。

全文提供: 板室温泉 大黒屋

最終更新 2009年 8月 01日
 

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