展覧会
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執筆: カロンズネット編集3
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公開日: 2013年 1月 15日 |
拝啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。 児玉画廊(京都)では1月12日より2月9日まで中川トラヲ個展「hystesis」を下記の通り開催する運びとなりました。今回の個展では近年精力的に取り組んでいる薄いベニヤ板に描く半ドローイング的な手法による新作を発表致します。 「hysteresis」(履歴現象)という言葉は、物理現象においてある作用(例えば磁化のような)によって起きた変化によって、元の状態に戻りにくくなる等、履歴が後の作用に影響を及ぼす事を指しますが、転じて物体における記憶の機能であると砕いた解釈をする事もできるでしょう。中川の根源的なモチベーションとして、人間の目が物体の像を捉えるという機能において、脳が処理できない知覚外の色彩やミクロサイズの塵芥や元素など全ての現象と事象を補足できたなら、世界は如何なる姿を見せるだろうという憧憬にも似た探究心があります。キャンバスに差す光や影、板の木目から自然発生的に描き始める中川の制作スタイルは、常に画面との探り合いであり、形が形を呼び、色が色を生むそれは、視覚情報と中川の望む世界の姿の間に厳として存在する齟齬を如何に補正するかを、物の記憶に尋ねようとする行為にも似ています。 中川は自身の作品において、目にする事の出来る具体的な物や風景を描くのを放棄し、未だ見ぬ、或は本当はこう見えているかも知れない可能性の世界に向けて、持てる創造力の全てを注いできたのです。中川の作品を前にした時、どことなく既視感と未視感の入り交じったような印象を受けるのは、作家が懸命に描き出そうとしているものが、誰しもが潜在的に持っているであろう視覚を超越した、より根源的なイメージと響き合うからなのでしょう。 薄くしかし無数に重ねられたレイヤーによって、色彩は奥から滲み出るような柔らかな変化を見せ、内へ内へと深く耽溺するような詩的な表現は、抽象的であるとか、線描やコンポジションがどうこうと言う次元を超えて、見る者の足をしばし留める不思議な魅力を湛えています。時に牧歌的な風景を思わせ、かと思えば、他方では激情に駆られるようなドラマティックな様相を見せ、万華鏡を回し覗くように無限に世界のヴァリエーションを見せられているような気持ちにさせられます。 イメージが壁面にただそれだけの存在として浮かび上がるようなこの厚さのない絵画は、中川が我々に向けて広げる一枚のフィルターとして、邪魔な視覚情報をどんどん取り払っていく不可逆性の作用を引き起こし、新たな感覚野を与えるように思えます。つきましては本状をご覧の上、ご高覧賜りますよう何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具 2013年1月 児玉画廊 小林 健
レセプション:1月12日(土)18時より
全文提供:児玉画廊 | 京都
会期:2013年1月12日(土)~2013年2月9日(土) 時間:11:00 - 19:00 休日:日・月・祝 会場:児玉画廊 | 京都
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最終更新 2013年 1月 12日 |