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貴志真生也:リトル・キャッスル
展覧会
執筆: 記事中参照   
公開日: 2009年 5月 31日

© Maoya KISHI / Courtesy of Kodama Gallery

貴志は本年3月に京都市立芸術大学を修了、在学時より鉄、石、木材、廃材、電灯などあらゆる素材に渉ってインスタレーションおよび彫刻作品を発表してきました。貴志の作品は、一見すると全く意味や必然性を欠いた物の寄せ集めのようであり、あるいはそれを逆手に取って多元的なテーマを複雑に孕んでいるのか、とにかくそれが何であるのかを探ろうとする視線を徒に拒絶するかのようです。「見た事のないものを作る」とは作家の弁ですが、それの意味するところは決して奇を衒うとか荒唐無稽とかいうのではなく、常識の網を掻い潜るような手段でそこにはあり得ないはずの現象/事象をある空間に表してみせること、もしくは機能や形など事物がその存在意義として与えられているはずのものを無視あるいは無意味化して別の何かとして置換してみせること、と捉える事ができます。より広義には既視感からの脱却ということになるでしょう。寄せ集めるということに関しても、それは単に何かを並べてみた、組み合わせてみた、という思慮のないものではなく、意図的に構築され試行錯誤を重ねた上でようやく辿りついた非脈絡性とも言える特殊な集合体として表されています。例えば、卒業制作として発表された作品では、木材とブルーシートでできた天蓋のような高さ約5メートルの構造物の中空に発泡スチロールを削って作られた氷山かあるいは鉱物の結晶のような巨塊、明滅する照明の色彩を映しつつ浮かんでいる、というインスタレーションを制作しました。素材それぞれは全く関連性のない物、むしろ入手しやすく、手軽な物である以上の特別性は一切なく、しかし、全体としてそこだけが異空間である、とでも言うように、作品内部に閉塞させる構造あるいは結界のような一線を持った秘密めいた装置かある種の祭儀的な何か、といった気配を漂わせています。とは言うものの具体的にそれが一体何であるのか、見れば見る程に疑問が疑問を呼び、一向に答えを見つけることができません。ただ、異様な何かがその存在を誇示するように眼前にある、という事、そしてそれはその空間が周囲の世界を遮断するようにして独立した存在であるという事だけが体感的に伝わってきます。

初の本格的個展となる今回、木材によって作られた巨大な「城」と仮に呼称する物を制作致します。「城」とは本来洋の東西を問わず、権力の象徴である他に、石垣や堀、城壁等によって隔離された異空間であり、内部に保護、守備すべき物を擁する砦としての役割や排他的区域として何らかの一線を画する存在でもあります。今回貴志の制作する「城」、基本的に細い木材によって櫓のように組み上げられたそれは、「城」のような形を纏うもののその実全くの別物であり、その空疎な様相は、およそ何かを守る物でも権力の象徴でもあり得ません。しかしながら、敢えて例えるならば「城」という他に言葉を得ない我々の脆弱なクオリアを弄するように、なお泰然として画廊の空間を支配します。貴志の作品の何たるかは、説明の付かないその様相、理を逸した物と物の脈絡のなさ、それらの他に何かを求め探ろうにも最早それに尽きるのかも知れず、そうした期待や予測すらはぐらかされてしまうその空間をぜひ体感頂きたく存じます。

【同時開催】Kodama Gallery Project: No18 関口正浩「うまく見れない」

※全文提供: 児玉画廊

最終更新 2009年 5月 30日
 

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