石塚源太:たゆたうさかいめ |
展覧会 |
執筆: 記事中参照 |
公開日: 2011年 8月 16日 |
左: 《座標のスキャニング》2010年|漆,合板,ワッシャー,シャーペン芯|Ø90 ×d3cm (画像:部分)|撮影:表 恒匡 | 右: 《未知なる消失点》2010年|漆,乾漆技法|h27×Ø56cm | 画像提供:アートコートギャラリー | Copyright© Genta Ishizuka 石塚源太は、伝統的な漆芸の技法を核に制作するなかで、その塗面に現われる独特のつやに絶えず魅了されながら、物の存在とそれを知覚する経験という、根本的で不可分な両者の関係性を追究しています。 蒔絵の技法を用いた近年の代表的な作品『Flatland』のシリーズや、『座標の地平』では、カッターの刃や縫い針、シャープペンシルの芯などの日用品を素材として用い、それらを組み合わせ、研ぎ出すことで、艶やかな漆の塗面に、無数の惑星が浮かぶ平坦な宇宙を思わせる図像が浮かび上がります。物質としての塗面に対し「第二の物質」としての金属片が嵌め込まれた面に向き合う時、鑑賞者の視線は、柔らかな金属の光沢に遮られて塗面の存在を再認識すると同時に、その向こう側に依然として広がる暗く透明な奥行きを見出します。 また、巻貝や臓器を思わせる有機的なフォルムの立体表現では、起伏そのものによって塗面が強調され、外側の曲面とつやが引き立て合いながら観る者の視覚、触覚までをも刺激する一方、つや消しの仕上げによって立体感を消去された内側の空洞への入口が、深い闇に満たされた異空間の気配を漂わせています。 緻密な手作業の工程が幾重にも凝縮された物質としての存在感を湛える塗面と、そこに現われるつや・対置される闇という非物質的な現象の双方が、知覚経験において同じ強度で際立つことで、鑑賞者の意識は、実在と非在、モノとイメージ、二次元と三次元、そして此方と彼方という、重なっては離れ、ときに入れ替わる多層的な存在の「さかいめ」を揺れ動きながら、知覚と認識についての問いへと誘われてゆきます。 これまで、平面の作品においては、塗面を「面」として際立たせるために、完全な二次元世界=Flatlandを表す像が図柄となってきましたが、今回は、3次元的な交叉やねじれ/歪められた2次元といった図像を塗面に埋め込んで、いわば「二重の奥行き」を生み出すことを試み、また、塗面を2次元から3次元へと展開させる立体表現を再考し図像と結合させるなど、さらに深化した作品群によって展示を構成します。 漆の塗面を原点に、図像と形態の双方における次元=XYZ軸を巧みに転換・増減させることで、より重層的な表現と知覚経験を生み出そうとする石塚によって、ギャラリー空間全体に構築される未知の座標系を、どうぞお見逃しなく。 石塚源太|Genta Ishizuka ※全文提供: アートコートギャラリー 会期: 2011年10月1日(土)-2011年10月29日(土) |
最終更新 2011年 10月 01日 |