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俵 萌子:絵画、それを愛と呼ぶことにしよう Crazy for Painting vol.2
展覧会
執筆: カロンズネット編集3   
公開日: 2012年 5月 21日

俵 萌子
「untitled2-04」
2012年
油彩・キャンバス
162x194cm

●俵萌子、絵画が絵画であるために 保坂健二朗

誤解を恐れずに言おう。俵の絵画に新しさはない。彼女が生み出そうとしている深さや美しさは、これまでも無数の画家たちが捉えようとしてきた「質」にほかならない。いまどきこんな絵を描かなくてもと思う人だっているだろう。いまどきの絵。その多くは主観性に彩られた「質」にかかずらうなんて愚は犯さず、「装飾性」や「レイヤー」といった問題に取り組んでいる。でもそれらは結局のところ、たとえば地と図の認識といったような、19世紀末から20世紀初頭にかけて生まれた心理学的な問題を源泉としている。実際のところ絵画では、それよりもさらに早くから、印象派、ポスト印象派、新印象派と続く流れの中で検証・展開されてきたのだけれど、とにかくその結果、画家たちは、(あまり気づいていないかもしれないが)絵画がなんらかの理論の図解(scheme,illustration)となってしまうおそれを漸次的に高めてきた。しかしだ。絵画は図解であってはならない。絵画は絵画でなければならない。そう考えればこそ俵のような画家は、あえて前近代的な主観的な質に取り組む。「知覚(perception)」ではなくて「感情(affection)」に重きをおき、自分のうちに立ち上がる極めて私的な感情を頼りにしながら制作する。個的な感情を美や深さといった普遍的な問題に一挙につなげようとする。pre-impressionismの画家たちは、そうした無謀とも言える使命を当然のごとく自らに任じていた。あるいは、今もそうしている。ところで、個から普遍への飛躍を許すものを、18世紀後半に生きたノヴァーリスは愛と呼んでいた。彼はまた、愛は自然(Natur)と技術(Kunst)の間にあるべき関係だとも述べている。詩人であり鉱山技師でもあったノヴァーリスの言葉は、風景(自然)にも見える絵画(技術・芸術)を愚直に描き続ける俵を通して考えると、実に腑に落ちる。愛という、飛躍を許す関係性の概念を信じられない者に、美は訪れないのだ。もちろん、絵画も。

[作家コメント]
私の絵についてよく「風景を描いているのか」と問われることがありますが、具体的な対象はありません。描き始める上で、重要な役割を担うのは絵具の存在です。出来るだけ規則性を持たせずに画面上に絵具を置いていくと、自分の予想を超えて色彩が深く美しく変化する瞬間が訪れます。その変化に導かれるようにしながら衝動的に筆を動かすと、強いストロークが生まれます。 私は絵具の強烈な存在感によって自分の内面性が発露させられるのを待っているのです。

そういった瞬間の連続から層が生まれ、画面上では偶然に奥行感がもたらされたり空間に広がりが現れたりします。それらを見逃さず、各々の部分が独立しながら見る者の視線を引き込むように描き進めると、ぼんやりと一つの景色のようなものが現れてきます。ある人はそれを自分の記憶の中の風景だと言い、ある人は19世紀のヨーロッパの風景画のように感じるようです。

絵画というのは、言ってしまえば支持体の上に定着させた絵具の塊です。私の作品は意識的に厚みのあるテクスチャーをつけることで、ときに絵画的な空間から見る者の意識を乖離させ、現実(物質性)のある方向へと引き戻します。私は、人が絵画という物質的な存在に対して 架空のイメージや自らの記憶を投影することを非常に興味深く感じます。そのことは個人の恣意的な感覚、いわば“錯覚”と言えるかもしれません。けれどその錯覚こそが人にのみ与えられた幸福な能力なのではと思います。

錯覚と知りながらも夢を見たり信じたりする。そうできる間は人が人らしくいられ、そして私達は求める幸福に近づくことができるのではないでしょうか。 私は自分の生み出した絵画という存在が現実と錯覚の間を繋ぐものになれば良いと考えています。

[作家プロフィール]
俵 萌子 Moeko TAWARA

1978年静岡県生まれ。
2001年大阪教育大学教養学科芸術専攻美術コース卒業。

主な個展
2011年(2006年~ 毎年)Oギャラリーeyes、大阪
2011年Oギャラリー、東京
2008年Oギャラリー、東京
2005年Gallery H.O.T、大阪など。

主なグループ展
2010年「トーキョーワンダーウォール公募2010」(東京都現代美術館)
2009年「Absolute basis 俵萌子と細田聡子の場合」(Oギャラリーeyes、大阪)
2008年「VOCA展2008」(上野の森美術館、東京)
2007年 「Drawing-Exposed essence 07」(Oギャラリーeyes、大阪)
2006年「elan」(Oギャラリーeyes、大阪)
2005年「シェル美術賞展2005」(代官山ヒルサイ ドフォーラム、東京)など。

アーティストトーク 2012年5月26日(土)17時~18時
オープニングパーティー 2012年5月26日(土)18時~


全文提供:gallery αM
会期:2012年5月26日(土)~2012年6月23日(土)
時間:11:00 - 19:00 
休日:日・月・祝
会場:gallery αM
最終更新 2012年 5月 26日
 

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